ある日の夕方、とある店で集会が行われた。
デートがしたいという恋人のため、ある男は、その店で待ち合わせをすることにした。
それが、昼頃のこと。
未だに恋人はあらわれない。
しかしながら、彼は上機嫌で、不良たちの集会場所にとどまった。
恋人が嫌いなわけではない。むしろ大好きである。可愛くて可愛くて仕方ない。
それなのに、待ちぼうけさせられているこの状態で、彼は上機嫌だった。
よっぽどのことでないかぎり、電話をしないというのは彼と恋人が付き合うときに決めたルールだ。だから、連絡はほとんどメールである。
最初にきたメールは『遅れる』。次にきたメールは『もう少し待ってくれ』。その次にきたメールは『今、駅前だ、もう少しかかる』。次第に場所を告げ、どうやって行けばいいかをきく内容に変わっていき、何度も何度も懇切丁寧にメールで説明するという不親切をはかる彼は、最初から今日という日にデートをするつもりはない。
最終的に、ようやく今の時間になって、メールの内容はこうなった。
『電話する』
そして、返信をする前に電話がかかってきた。
「一人でも来られるんだろ?当たり前だよな。夏井だしな」
待ち合わせ時刻は昼間だ。そして、今は夕方だ。
迷子以外の何者でもない恋人に電話口で笑いかける。
電話はよっぽどのことでないかぎりしない。…つまるところ、もう、かなりどうしようもなくなり電話してきていることも、彼は知っている。
「だが、夏井。もう俺は待てねぇ。夏井がおせぇのがわりぃ。じゃあな」
相手の返事も聞かぬままブツリと電話を切る。
茫然としているだろう恋人から、再び電話がかかってくる前に着信拒否をすると、彼は意気揚揚と店を出る。
その後ろ姿を、集会に参加していたこの辺りをしめる不良たちは、白い顔で見送った。
「きいたか」
「マジヒデェ!」
「夏井さん、超方向音痴なのに」
「あれ、わざとだろ」
「夏井、方向音痴なのに、来たこともない、しかもこんな入り組んだ場所にある店なんてぜってぇこれねぇ」
「しかも夏井、中里さんと釣り合うためにもちょっと頑張ってんのによぉ」
「惚れた弱みか、中里さんが強いのか、断りたくても断れないこと知ってるくせに」
「あいつ電話かかってくるまで待ってやがったな」
「今多分迎えにいったんだよなぁ…夏井さんGPS付だし」
「あの言い方、ぜってぇ夏井、勘違いしたってー」
可哀相に。
それが不良たち全員の見解だった。