吸血鬼・鬼怒川



昔からそうだ。
期待した分ショックは大きくなる。そう、昔からだ。
クリスマス、ヴァレンタイン、誕生日、ハロウィン……貰えるのはありがたいことなのだが、俺の前には塩っけの多い菓子、料理が置かれる。貰えるのはありがたい。しかし、甘いものにありつけないことにはがっかりした気分しか残らないのだ。
だから、期待はしない。
たとえそれが、俺の嗜好を知っている人間がすることでもだ。
「いたずらするか」
ハロウィンは、菓子かいたずらの二択であったはずである。学内のお遊びで仮装した俺と廊下で会った古城の呟きが、菓子の存在を消し飛ばした。
本当のところ、仮装している俺がトリックオアトリートと尋ねるべきで、そのいたずらは無効である気がする。
「風紀委員長様が吸血鬼って、風紀乱すためにやってんだろ」
「お望みなら乱してやろうか」
しかし、古城のいたずらには少し興味があった。いたずらには縁のなさそうな、それ以前にイベントごとにも興味がなさそうな顔をしている。本当のところ、古城はこの学園にいるからイベントごとを意識しているだけで、さして興味はないようだ。
「イタズラすんの、てめぇか」
「お望みならな」
「ご遠慮して置くわ」
そう言って俺の燕尾服の胸ポケットに古城が何かを詰めた。
「吸血鬼にイタズラさせるなら、こんなとこじゃ満足できねぇよ」
「左様で」
古城を見送った後、胸ポケットに入れられたものを出して、心底がっかりしてしまった俺は、まだ期待が捨てられていなかったのだろう。
ガムの箱に指を挟まれながら、懐かしさと虚しさで途方にくれる。
後日、古城とのこの接触が素晴らしい脚色で広まり、古城と俺が一日休んだのは怪我のせいだということになった。
二人きりの時に吸血鬼ってエッチいよなと言い切った奴がいたという真実は、こうして隠されてしまうものなのかもしれない。