ゾンビ・雅



卒業した学園と恋人の通う学園はハロウィンで盛大に遊ぶところがある。
俺の通っていた学園ではお祭り騒ぎとして、恋人の通う学園では仮装に騒ぐイベントとして楽しまれているのだ。
その日のハロウィンは、その二つの学園合同のお遊びで、卒業した人間も参加できるのなら参加してくれと招待状が送られた。
招待状を持って、悪戯心も持って、会場の白鴬学園でゾンビになって徘徊しながら恋人を探す。
恋人は魔女っ子だった。
見つけた恋人が女ならさぞ視線を集めただろう。いや、男でもその格好ならば人の視線を集めてしまう。
恋人が、……チカが類稀な美形だからではない。似合っているとか似合っていないとかの前に、その体格の男がする仮装としてある意味大正解だからである。
少しからかって一度離れたが、それにしてもスゴイ仮装だった。
布が少ないのもさることながら、殿白河伊周という男前にそれを着せた勇気を称えたい。衣装係はさぞ楽しかったか、泣きたかったかのどちらかだろう。
「チカ」
面白い格好を見せてもらったので、悪戯も楽しくさせてもらったのだが、悪戯がすぎてしまったらしい。
さらっと一周回って戻って来た俺が声をかけて、漸く正気に戻ったらしいチカが身を震わせた。
「こ、高雅院」
指を持ったまま俺に振り返る姿は、俺の悪戯にただ驚いている様子が見られる。一応、それなりに時間を置いて戻って来たつもりだった。チカには俺が衝撃的過ぎるのかもしれない。
「そうだ、まだ聞かれていなかった」
「何を……」
「菓子を先に渡してしまったからな」
俺を見つけたときに、やはり驚きのあまり目を見開く恋人が可愛くて、ついつい菓子を渡してしまったために、聞かれるのを忘れていたのだ。
「トリックオアトリートだ」
「さっき、聞かなかったか?」
「チカから聞きたいんだが」
またもや混乱したのだろう。未だ手を持ったまま、首を捻った恋人をからかわずにいられようか。
「ほら、トリックオアトリート」
「トリック……」
ほうけるあまり、やはりそこで言葉をとめたのをいいことに俺もやはり、こう言う。
「いけない魔女だな、悪戯がしたいだなんて」
「……ちが、こ、高雅院……!」
残念ながら、チカは慌てるばかりで、悪戯なんてしてこなかった。
本当に残念だ。