ヘビ・叶丞



俺は何をしているんだろう。
ふと思うことがある。
それは戦闘中であったり、友人と遊んでいるときであったり、こうして尻尾を両手で挟んで持ち上げられているときにも、不意にやってきては、俺を悲しい気分にさせた。
「一応、一応や。神経通っとるみたいやからやめてくれへん?」
「兄貴、聞いたか?神経通ってるんだってよ!」
「十織、耳と尻尾が動いているお前も、多分通ってる」
とある魔法使いに罰ゲームで、試薬とやらを飲まされ、急激な眠りに落ち、目がさめると俺には鱗と尻尾があったのだ。鏡で確認すると中途半端に蛇か蜥蜴に変身した姿があった。
一方、同じ理由で薬を飲んだ会長は、黒い尻尾に、黒い三角の耳、肉球だけはピンクのやはり、黒い前足を持った猫のようなものになっていた。
「黒ニャンコと、蜥蜴……いや、叶丞なら蛇だな。駄犬は犬だろ?」
怪しい薬の餌食になったのは、俺たちだけではない。
ゲームは一織の一人勝ちだったので、同じゲームに参加した良平と青磁も同じく変化をしていた。
良平は明らかに毒を持った自然界に喧嘩を売っている色の蜘蛛だ。一撃でコロリといってしまう毒を持っているようにしか思えない。そんな下半身がケツからオマケのようについていた。
青磁は銀の毛並みの犬……ではなく、狼だ。姿形からすると狼男といっていいだろう。良平は青磁が狼だろうと狸だろうと狐だろうと、駄犬といってしまうし、青磁も良平にうっとりすることに忙しいので否定しない。誰も訂正しないものだから、誰もがそのうち狼からワンコへと認識を改めるだろう。
「愉快な姿だな」
悠々と笑う一織が変化したなら、会長が黒猫なのだから、金持ちの膝に乗る毛足の長い猫になっていたに違いない。そう思って溜飲を下げるしかなかった。
「しかしなんや、カボチャの日ぃに、これって示し合わせとるんやろか?」
「西の方のあの風習、今日だったのか?」
「そや。しかしなぁ……これ、薬のせいやろか。追求関連やし、なんや怪しげな魔法使うとるんやないやろか……ちゅうか、会長、さっきから、尻尾殴んのやめたって下さい」
「動くテメェが悪い」
物思いにふけっている間、会長の猫パンチが俺の尻尾を襲っていたのだ。
会長が俺の尻尾を離したあと、逃げるように尻尾を動かしたら、会長が追ってきたのである。鱗で堅いとはいえ、微妙に痛いかった。
「……なんで、動かすのやめたら尻尾持っては離すん?」
動くから悪いというから、止めたら、次は尻尾を持ち上げては離し、持ち上げては離しと、まったく落ちついてくれない。
「動かねぇのもつまんねぇ」
「完璧に猫やん。なんなん、そのワガママなんなん?」
「動かせ、早く動かせ」
仕方なく要望に応えたが、やはり、尻尾が地味に痛いので、早急に他のことに気を向けてもらいたいものだ。
「俺は蛇も嫌いじゃねぇから」
「聞いとらーん!」
猫というのは好きなら、どんな理不尽も可愛いものだが、それと比較されても困る。種類からして違うし、俺は現状で好かれたいわけではない。
「あ、俺も蛇は嫌いじゃねぇけど、てめぇは好きじゃねぇ」
会長はこんな日も冷たかった。
好きじゃないなら、尻尾をついには踏みつけて、もう片方の手で殴るのは本当にやめてもらいたい。
「叶丞愛されて辛いなー」
「これって愛されとるん?」
青磁の尻尾を長くて尖った怖い爪の生えた手で梳かして良平はご機嫌だ。青磁は何かに耐えるように耳を伏せ身を震わせ……たぶん、尻尾に触られるのが嫌なのだろう。
「ま、あれだ。菓子なんて皆持ってねーし、西の風習からしたら、悪戯し放題ってことだな」
その認識には誤解があると言いだす前に、俺の尻尾は会長によって鱗が剥がされそうになっていた。
「会長、そらあかん。ぜったいめっちゃ痛い。泣くちゅうか、怒るよ?」
「お、おう……」
鱗から手を離し撫でる様子は悪戯がばれ、バツ悪そうにしている子供のようだ。本当に、悪戯だったのかもしれない。再び俺の尻尾を殴り始めた会長は少し不満げだ。
「これ、いつになったら直るんやろなぁ……」
顔を手で覆って尻尾を振るうと会長が急いで猫パンチをしてきた。
こんな動物だか虫だかに囲まれたカボチャの日なんて満喫したくない。
ふと、どころか、心底思った。