クロネコ・十織



西のほうに伝わる風習で、カボチャの日には何か仮装をして、お菓子か悪戯かを問わなければならないらしい。
いつだったかにもアレに聞かれたが、鼻で笑ってやった。
しかし、今回は事情が違う。追求の怪しい薬を飲むという罰つきのゲームに参加し、その怪しい薬で俺は黒い尻尾と黒い耳、肉球と兎に角獣くさい何かを手に入れたのだ。
何故か俺の薬は精神にも作用したようで、無性に目の前をチョロチョロと動くものを手で叩きたい気分になっていた。そんな俺の目の前でおあつらえむきにもアレの蛇尾が動く。速くはない。しかし、光によってたまに白金に煌く尻尾が、どうしても叩きたいのだ。蛇尾の持ち主はアレである。叩いても問題ないだろうと、叩き始めると、アレの尾は激しく振れた。
それからは、夢中だ。
ネコがネコじゃらしに飛び掛るのも納得できる。飛び掛らずにはいられない魅力があるのだ。尾の持ち主がどんなに魅力に欠こうと動くさまが気になって仕方ない。
次第に楽しくなって理不尽なことも言ってしまった気もするが、相手はアレだ。問題ない。
「会長、ほんま、そろそろやめよか。うろこなんやボロボロやし、地味に痛いし」
「ああ?」
皺が眉間に寄ったのがわかった。この楽しいことを何故やめなければならないのだろう。
すっかり人間としての理性を何処かにおいてきていたのかもしれない。だが、このときはもっと遊びたい気分が勝っていた。
「ほな、代わりにこれとかどうやろか」
アレが持っていたのは、小さな釣竿のようなものについた毛玉の玩具だった。
あのフサフサも釣竿が動くたびに一緒に動いて、俺の目にはとても魅力的に映る。
アレの顔はにやけていたから、尾をボロボロにされた仕返しに悪戯のつもりでやったのかもしれない。
しかし、俺は、それを極上の遊びと捕らえていた。
「キョー、楽しそうだな」
「会長が相手してくれるちゅうことが、めったにないことやからねぇ」
「憐れな……」
出来れば、アレではなく兄貴があの釣竿で遊んでくれないだろうかと思っていたというのは、秘密である。
アレが持っていたにしては綺麗なうろこをボロボロにしてしまったせめてもの侘びだ。