クモ・良平



ケツが起毛しているというととんでもなく悲しい感じだが、まさにそのケツは起毛していた。
保護色というものもあれば、威嚇するための色も自然界には存在している。しかし、俺についたケツは配色もさることながら、自然より先に視界に暴力を振るっていた。
その起毛しているフサフサのケツに、駄犬の手が触れる。
人間のものと違い、現在の駄犬の手にも毛が生えており、撫でてくる手も柔らかい。
けれど、興味本位で撫でまわしていると思うのだが、それはれっきとしたケツだ。
起毛していても、威嚇していても、毒針のようなものがあっても、ケツなのである。
「お触り許した覚えはねーな」
「あ、すみません、良平さん」
「ケツ狙いとかマジやらしいわー」
「そんなつもりは……」
「そういういやらしい駄犬には、お仕置きが必要だな?」
俺はケツを青磁から離し、振り返る。本物のワンコで慣らした手で、青磁の耳をくすぐった後、恐らく気持ちいいだろう場所を丹念に撫で、最後に、生えている生物は大抵嫌がる尻尾を触り始めた。
最初は顔を蕩けさせんばかりに気を緩めていた駄犬が、尻尾を触った瞬間に背筋を伸ばす。
如実に、嫌な感触がすると訴えているようだった。
それでも俺に青磁が何も言わないのは、それがお仕置きだと解っているからだ。
「ちゃんと耐えられたら、後で御褒美やるよ」
口をへの字に曲げてまで、尻尾に触れられることを嫌がるくせに、俺の言葉には耳を細かく動かした。
「御褒美……」
「そう、御褒美」
嬉しそうに尻尾まで動かすものだから、解りやすい。
「ちゃんと大人しくできたらな」
そして、青磁は俺に悪戯もできないで耳を伏せ、俺の悪戯に耐えたのだった。