『医者にも治せないらしい』


会長と補佐は幼馴染で、ご実家もお隣。二人はラブラブ。
というのはよく知られる事実だ。
本人たちが隠す気配がない。
しかし、この二人はラブラブ。という認識も、実は中学校くらい…いつだったかわすれたけれど、言われ始めたことである。
と、いうことは、最近この二人が気になっている俺はもう、即行失恋決定。
しかも、二人ともが気になるってどうなんだろう。
同じように好きだよってわけじゃない。
ただ、同じ量、同じ種類ですきなのだ。
たとえば、ビーカーが二つあって、液体の種類は両方水だったとする。
両方とも色水で、両方とも色は違う。けれど、色の系統は同じで、量も同じ。
さて、どっちがすきなの?どっちでも同じく好きです。
なんて、本人たちには普通に接して普通に言えるけど、それがどんな種類の好きかだなんて、他人にはいえたものじゃない。
両方とも、恋情で好き、だなんて、いえない。
だって、普通は一人を選ぶものだろう。
そんな葛藤をかかえつつ、今日も食堂の騒がしい中で、俺と会長と妹尾の交流は続く。
「会長は…」
「ところで、夏川(なつかわ)。俺の名前は知っているか?」
「……日向一二三(ひなたひふみ)、ですよね?」
「ッ、あ、ああ、そうだ。…なんで、道哉は妹尾なのに、俺は会長なんだ?」
会長、気のせいじゃなければ、どもったね。しかも、ちょっとつまったね。
不意打ち?不意打ち?ちょっと嬉しそうに見える。ちょっと、それは俺にも不意打ちだったよ。
ぽかんと見たあと俺は首をかしげる。
「妹尾は、クラスメイトだからです」
「……俺だって、クラスメイトだった時あったじゃねぇか」
少し眉間に皺をよせてぽつりと呟いたのは聞こえなかったふりをする。可愛すぎるし、そんなこと言ってたの気がついてたなんて会長が知ったら、カワイそうなくらい赤面するにちがいない。
「会長のことも、日向ってよびすか?同学ですもんね。会長っていうの慣れすぎてて、ついつい会長っていっちゃうんですけど」
ぱって振り返って、感無量。みたいな顔する。
やばい、この人かわいいなーとおもってたら、サイドから会長の頭に手が伸びてきた。
会長の…日向の頭を撫でるのは妹尾。
頭撫でられてる日向もかわいいんだけど、それを撫でてる妹尾も満足そうですごく可愛い。
もう、眼科行っても、手遅れですって言われるに違いない。
「いち、よかった。いち、嬉しい。俺、嬉しい」
「っば…!」
慌てる日向。悪戯っこのような顔で笑う妹尾。
俺も嬉しいです。と思いながら、ニコニコと微笑む。
食堂では相変わらず、可愛い人と綺麗な人が転校生を囲んでいるが、初日と違って野次は聞こえない。
何故か溜息が聞こえる。憂鬱というより、ちょっと満足げというか、うっとりしたというか。たまに、自問自答してる人もいる。
有り得ない、あの二人が可愛く…有り得ない。
え、俺だけじゃないのは知ってますけど、それ、あんまり見えてて欲しくない。…と、ついに独占欲まで動き出した。
こまったなー。どっちかなら俺困らないのに、二人が二人とも可愛くて、二人とも好きなんて節操ない…。
「あ、そろそろ、いかないと。じゃあ、日向はまた放課後。妹尾、移動教室、一緒だよな?」
相変わらず日向は妹尾が羨ましそうで。
ちょっと、かわいそうかなぁと思った俺は、日向にこういった。
「俺も、覚えてますよ。日向はいつも窓側で寝てました」
予想通りの赤面だった。
「俺も」
「ん?妹尾?ええと、ああ。妹尾も毎日寝てるな」
ついてきた妹尾にそういうと、なんだか満足そうにした。
二人ともよく寝るのに、成績いいだなんて詐欺だ。
「み、みた?今日もイケメン様のイケメンぷり!」
「ていうかもう、会長様と補佐様のあのマイナスイオンぷり!」
そうして、うっとりと溜息をつかれているだなんて俺は知らなかった。
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