『処方箋も難しい』


男同士のラブシーンというのはこの学校では珍しいことではない。
ちょっと目を凝らすとあっちでいちゃいちゃ、こっちでいちゃいちゃ。
だけど、まさか、この二人のラブシーンを見ることになるとは…。
「ま、まて、夏川…!」
俺の腕をとって慌てる日向と、その隣でうんうんと何度も頷き、日向にとられた腕ではない、もう片方の腕を取る妹尾。
離した方が本当の母親だ!とかいってる場合ではない。
俺は、正直、逃げたい。
「そ、の…見たか?」
見てしまったのだ。
軽くちゅっとかではなくて、それはもうディープなキスをしていた二人を。
別に、ラブラブだとか恋人同士だとか、果ては海外で結婚式をあげるだとか言われている二人がしていたっておかしくない。
しかも放課後の、人目につかない人気もなく埃っぽい、あまり使われてない資料室でキスしてたって、不思議ではない。
俺の気持ちの整理がつかないだけで。
「あー…はい」
すでに捕まっているのだからつくろっても仕方ない。
「そう…か…」
日向がもったほうの腕が離れる。
ショックだったのか、恥かしかったのか。まぁ、友人にキスシーンを見られて喜ぶ性癖は持ち合わせていない日向は、恥かしかったんだろう。俯いて顔は見えないが、耳は真っ赤だ。
こんなときだが、可愛い。
未だ俺の腕を持ったままの妹尾の力が強まる。
「いや…?」
男同士がキスをしていることなのか、ふたりがそういう関係であることがなのか。
どちらかは解らないが、俺は妹尾の質問に首を振る。
嫌ではないから混乱しているのだ。
日向と妹尾がキスをしているのは、二人とも両想いなんだろうなと思わせる何かがある以上に…かわいかった。
エロくてかわいいなぁ、二人とも。だなんて、なんと腐ったことを思ってしまったことか。
気づかれる前に逃げようと思っていたのに、それもままならず、こうだ。
「嫌じゃない」
妹尾が、ふにゃ…っと、笑う。いつもの、あの笑顔だ。
「なら、いい」
俺を引っ張ってぎゅっと抱きついてきた妹尾に驚いていると、何時の間にか日向が俺と妹尾を見ていた。…顔は赤いが、何か少し嬉しそうな、それでいて羨ましそうな。
ちょっとだけからかいたくなった。
片手を伸ばして、日向に笑う。
「日向も、どうですか?」
冗談のつもり、だったんだけど、少し迷ってからぎゅっと俺と妹尾を抱き締めた日向は満足そうだ。
…俺は、たぶん、勘がするどいほうだ。
けど、まさかまさか、そんなことがおこるとは思わないし。
だいたい、そんなことが起こると思うこと自体うぬぼれだと思うわけで。
けれど、俺の青春まっさかりな脳はどうも、この二人は俺を好きなんじゃなかろうかと思ってしまっている。
そして、二人してなにか俺とインモラルな関係になろうとしていないか。とか。思ってしまうわけで。
「なぁ、二人とも、俺のこと……勘違いとかだとは、思うんだが、……好き?」
さらにギューっと抱きついてきた妹尾の分も頷くように、日向が大きく頷いた。
「あ、友達として?」
それに対しては、妹尾が、引っ付いた状態で大きく首を横に振ってくれた。
「……ふたりとも?」
え、会長ちょっと泣きそうだ。
そんなにも?肯定なわけですか。
ちょっと、俺、舞い上がってもいいか?
二人とも好きだなんていったら、ドン引きかなぁ。いや、でも。ここではっきりさせておいたほうが、あとに引っ張って大変なことになるよりいいかもしれない。
と、俺はおもうわけで。
「その…俺も、好きだよ。二人とも」
二人が、どう受け取ったかは知らない。
知らないけれど、二人とも嬉しそうに笑ったので。
まぁ、いいかなぁ…なんて俺は甘いのか。
「…道哉、何かよからぬことを考えてないか」
「せっく」
「道哉」
「だって、どう…」
「そういうのは、自然の成り行きで」
何か幸せ気分すぎた俺は、二人が後ほどそんなことを言っていただなんて、しらなかった。
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