ついにこのときがやってきたのか。
本来ならば、肩を落としてしかるべきだが、俺は、溜息一つつかなかった。
取り合えず寝る、それから部屋の片付け、好きなもんくって、休みには外に出て。
やりたいことは次から次へとでてくる。
俺の腕を足を掴んで離されず、教師陣が頑張っていくれているおかげで一歩も動けないが、頭の中はやりたいことでイッパイだ。
「待ってくれ、斎(いつき)!リコールの書類を取りに行ったら最後なんだ…!」
若い、シャツのセンスがホスト並の教師が、俺の脚に縋りつく。
…生徒会顧問だ。
「そうだぞ、斎くん!ちょっと、ちょっと待ってくれたら、先生たちがごり押しするから…!!」
といったのは、中堅どころといっていい先生で、妻子持ち。ダンディでカッコいいといわれる教師が腕をもって引っ張る。
「君が、君が最後の砦なんじゃああああ」
その物腰や日向にいるようなのんびりさが好まれる老教師が腰に抱きついて重りに成る。
正直、腰についてる重りは軽いものだが、派手に振り払ってなんとかなってはと思うとそれができない。
まっさきに飛びついてきた老教師は、俺が、リコールされることを一番望んでいないらしい。
俺が就任するときも、熱心に口説いてくれた。お茶と和菓子を毎日一緒にしながら、毎日毎日、それはもう、『明日は晴れかな』というくらい気軽に口説いてくれた。
孫くらいの気分になって、結局この先生のおかげで、俺は生徒会長などという、ぶっちゃけ偉ぶってるだけの雑用だろう?な役員になった。
実家は金があり、成績もいい。運動神経もすこぶるいい。顔だっていいといわれている。長身で、将来も明るく、別に生徒会長だなんて役職つかなくてもいいか。というくらいには、自分に自信がある。
そんな俺は、どうせ、社会人になったら、いやになるくらい働くんだ。こんな学校の経営に一部携わっている生徒会なんて多忙な仕事はしないで、遊び倒してやろう。そう思っていたのだ。
なのに、この学校の特殊な役員選出方法により、生徒会長に選ばれ、いやですと首をふると、どうしても、と教師陣に頭を下げられ、最終兵器を投下され、生徒会長になった。
その結果、仕事をしたにもかかわらずリコール。
最後のほうは、部屋の隅に妖精すら見えた。
むしろ、目の使いすぎですね。という病気になりかけた。
なんで、俺、仕事なんてしてるんだっけ。
とさえ思い始めた。
仕方ないから、転校生に夢中な皆の仕事してあげるね。なんて気持ちにも最初だけなったが、最初の三日で止めた。
一週間で、各委員会の仕組みを作り変え、生徒会の負担を少なくしたが間に合わず、経営に一部携わる…方も大幅に削減し、大人に返上したにもかかわらず、俺の仕事は楽にはならなかった。
それだけで、二週間費やした。
あと一週間は多すぎるイベントごとを生徒会主催から、各委員会、各クラブ主催にしたりして、生徒会主催を減らしたりもした。
そして、仕事がピーク時よりはるかに減った!でも、本来数人でやるべき仕事を一人でやるだなんて、鬼の所業だ。
毎日毎日、それはタイヤキでなくても、いやになるというもので。
たまりたまった疲れは一気に、時間ができたそのときやってきて、そりゃあ、本来やるべき仕事と移行作業を同時開催していた俺が悪いのだが、倒れる…前に、ドーピングまで働いた俺が、かなり悪いのだが…それにしたって、目の病気になりかからなくとも。
そんなわけで病院いったり、少し休んだりしているあいだに、リコール案はだされ、あっさり。それはもうあっさりお通り遊ばされた。
これはきっと、俺に対する感謝の念で、皆、リコールにしてくれたんだな。と、思うことにした。実際のところ、各委員会代表は『ちょっとの間な』といっていた。
おい、リコールしたあとにまたリコールして、俺を生徒会長にまた推薦する気じゃなかろうな。
だれがなってもいいとはいわないが、責任感あるやつがなればいいじゃないか、俺みたいな適当なやつじゃなくて。
とにもかくにも転校生がやってきて、一ヶ月と少し。
俺はリコールされたわけだ。
そして教師陣に止められてるわけだ。
「いや、でも、リコールの書状とりに行かなくても、もってきやがってますよ、奴ら」
教師にすがられ、まといつかれ…。
そんな俺の前にやってくるのは、生徒会役員の面々…面…一部だ。
実をいうと、書記は引きこもりであるため、滅多にお外にでない。
だから、転校生にも会っておらず、親衛隊の面々にはネッシーやツチノコのように思われている。
会計にいたっては色事に忙しいため、生徒会にもともと顔をださなかったし、仕事もたまにしかやらなかったため、特に俺になにという不満もなく、俺という存在を危ぶむということもなく、転校生にも本気なのか、そうでないのか…。
副会長は、完璧に転校生メゾンに入っているが、庶務の双子などは転校生をペットにしたいくらいのもんではないだろうか。
なので、ここで、俺にリコールの書状を突き出すのはもちろん、副会長だ。
「よう、久しぶり、リコールの書状だよな?受け取る」
俺の軽い言葉に、副会長は眉間に皺を寄せる。
「貴方のような方が、何故生徒会長になったのかわかりません」
「理解してもらわなくて結構。早くくれ」
くれ、といわれたらやりたくないのか、手にもった書状をくしゃくしゃに握り締め、副会長は俺を見る。
「意味がわかりません」
そういって、結局書状を投げつけられた。
生徒会長には誰がなろうと、他の役員がしっかりしてりゃ問題はない。
俺はそう思ってる。
転校生祭りをしていたとしても、生徒会に残る以上はやるべきことはやらなければならない。
もし、それでダメなら、それこそリコールだ。
俺にはそれができなかったから、こうなっている。
だって、書記は引きこもりだが仕事はやってくれたし、会計のチャラけたやつだって、そのスタンスを変えなかった。
副会長はめっきり仕事をしなくなったけれど、罪悪感なのか、たまにしらない間に資料が分けられていたりもした。
庶務の双子だって、リコールされる気覚悟で、生徒会室の私物を片付けてあった。
わかっていて、やってたんなら、きっと、俺がやってしまうから、甘えてしまうだけで。
しなくなって、詰んでしまったら、たぶんやってくれるんだろう。
そう思う。
俺がリコールしなかった理由はただ一つ。
おまえらだけを楽にしてやるもんか。だ。
俺は会長を続けたくなかった。ってのも理由のひとつか。
どうにもこうにもたちゆかなくなったら、リコールされるだろうな。と思っていたから。
寺田先生には悪いが、本当に俺は生徒会長をやめたかったのだ。
「先生方、そういうことですから…」
教師陣が真っ白に燃え尽きている間に、俺は颯爽と寮に戻る。
一人部屋から、自分の荷物を撤去しに。
お気に入りのもの以外は全て捨ててしまおう。
それができる財力に感謝だ。