「か、会長さまぁ大変ですぅ」
もう会長じゃないって否定しても無駄だろう。すでにあだ名なんだろうな。俺は思う。
俺の親衛隊隊長、元生徒会長親衛隊隊長は、廊下を鈍足で走ってきて俺に抱きつくと、そう言った。
「ああ、うん。おまえのその態度が大変だわ。普通に話せ、普通に」
「えぇ〜これが素ですぅ」
「うっとうしいっつったらやめるか?」
親衛隊長は暫く考えて、ぶりっ子をするのをやめた。
「会長、気分だけでも僕にその気にさせてくださいよ。僕だって親衛隊なんですよ。たぶんかわいい類の」
「自分で言うな。…それで、何が大変だって?」
先程よりもツートーンは下がった声に男だな。と思いつつ、本人いわくかわいい類の親衛隊長が話を続けた。
「そうでした。実は転校生がきたんですよ」
「またか」
「またです。…それが、何か一匹狼君の孤独な心をキャッチして、爽やかなスポーツマンに気に入られ、副会長にも気に入られ、最終的に生徒会メンツ全員に好かれたそうです」
「またか」
「またです」
今度はどういう個性ですかれたんだ。
すくなくとも、会計と書記は恋情ではあるまい。
「どうやら冬のお昼間の縁側のような感じらしいです」
「…癒し系か?」
「…らしいです」
会長おはよっすーと声をかけられるのには手を振って…これも会長時に身に付けた処世術だがおいておく…微妙な顔で、隊長を見詰めた。
「今回は、風紀委員長や風紀副委員長までトリコにしたそうですよ」
その話を聞いての感想は、ひとことでまとめると『ああそう』なのだが。
これから仕事をしなくなるというのであれば、もしかしたら勝手が解っているだろうといって俺がかり出されるかもしれないし、そのまま俺をその場にすえておこうと画策されてもたまらない。
いや、もしかしたら、この転校生も何か画策に利用されているのかもしれない。
「…なぁ」
「はい」
「仕事サボったら、学校やめてやるって、会長と風紀委員長に釘さしておいてくれないか」
「解りました…と、いうとでも?むしろあの人たちさぼって、会長が会長になってくださればいいんです。そうすれば僕ら文句ありません」
…俺の親衛隊は、若干、俺至上主義なところがある。
最近の話じゃ、俺を慕う不良連中の一部もこっそり親衛隊にでいりしているとか。
「俺が会長になっても、俺は幸せになんてなれないから」
「別に不幸せになるわけでもないんですよね?それはそれで楽しめる方だって僕、知ってますからね。面倒くさいし、やりたいことできなかったし、眠いし、やめようとかそんななんですよね?充分休みましたよね?もういいですよね?」
何がもういいんだろう。
俺にはまだ彼女ができていないといって、幻滅でもさせればいいのじゃないだろうか。
とおもったら、親衛隊長はさらに畳み掛けてきた。
「彼女がおできにならないのはしかたありません。会長はかっこいいですが明らかに雲の上で、控えめな方は学校が同じでもない限りアタックチャンスなどありません。かといって、そのへんでナンパしてくる方々が皆いい人ってわけでもありませんので。そういう方はご遠慮願っているわけでして」
おまえらか、野郎の壁の一角は。
「というわけで、今後もここをご卒業しないかぎりそうそう彼女はできません。ということで、会長に戻ればいいんです。どうせできないんだから」
…すごく馬鹿にされた気がしてならないのはなぜなんだろうな…。