交流会とかいらないだろ、下界からわざわざ。
そう思っていたにもかかわらず、下界からわざわざお越しくださったのは、下界の友人だった。
「おまえヤンキーの癖に、生徒会とかどうなんだ?」
「その眼光でいわれてもな」
他所様の生徒会長が俺の頭の上に腕を組んでのしかかってきた。
重たい上にヤンキークラスでパンダになっている。
「しかも会長様でございましたか。すみません、敬意を今から表します」
「同じ立場だったやつに言われても、どうかと思うが?その上、敬意か?鼻で笑っていいか?」
頭上で笑う奴に、パンダの檻にやってきたお客さんは大喜びだ。
なぜ写真を撮る。パンダもご立腹するぞ。
「鼻で笑うほどの敬意しか集められないと自覚済みとは悲しいもんだな…」
「ああいえばこういうな。そういうところが嫌いじゃない俺もどうかと思うが」
この外部のヤンキーに俺は大変好かれている。
風紀委員長、生徒会長よりも熱烈に、親衛隊長よりも求められている。
そういう意味で、すかれている。
俺が感づくのも早かったのだが、この男が俺に気持ちを暴露するのも早かった。好きだからそういうつもりでいろよ。とのことだった。
世知辛くて、塩辛い。
下界の友人で、ヤンキーで、銀髪な他所様の会長様は余すことなく美形だった。特殊な生徒会役員選出方法をしているこの学園でも、男ばかりのこの学園でもキャアキャアいわれる類の。
俺も人並みの美的感覚を持っている。
汚いより綺麗がいいし、醜いより美しいがいい。
体形に関していえば好みの問題なのでどうとはいえないが、所謂上玉の男を前に体形云々というつもりもない。
ソレより何より、俺は男じゃなくて女がよかったわけで。
「なんで、おまえはこういうときに限って邪魔しないんだ」
「えーだって、いい男が二人とかぁ…眼福ですぅ」
「とりあえず、その口調うぜぇから」
大きな舌打ち。本当は俺のことなど嫌いなのではないのだろうか、この親衛隊長は。
「そうですね、簡単に言いますよ?出自といい将来性といいすばらしい。顔もいい。喧嘩もできるので守ってくれる。会長とためをはれる家柄、どうですか!」
「いや、何がどうなんだ?将来性については男を好きだといった時点で、この国じゃマイノリティで結構厳しいぞ。子供もうめないし」
「そこはグローバルなところにいけば、というよりも会長別に家についても考えてないじゃないですか。というか、ガキの恋愛が後々まで続くなんてレアケースですよ?それを貫くだなんて、むしろ最後まで愛してくれるといってくれてるようなものじゃないですか。もう、結婚しちゃえよ」
誰か、この親衛隊長止めろよ。と、俺は俄かにイライラを表にだし始めた。
俺にもたれかかっていた友人は、俺からどくと一つ溜息をつく。
「意外と短気だな」
「沸点は意外と低いんでな。特にこの野郎には色々邪魔されてるんで」
「良かれと思ってしてることなんですぅ。ゆるしてくださぁい」
「そんな気ねぇだろ。とりあえずそこになおれ。サンドバックにしてやる」
「……すみません、許してください。本気なのがわかりましたので。本気でごめんなさい」
親衛隊長はさすがに付き合いが長いだけあって、真面目に謝りだした。
これで茶化されでもしたら、本気でサンドバック代わりといわんばかりに静かに怒りをぶつけるため、俺の頭脳をフル動員して罵るところだった。
まだ、これは冷静な対処なので、ましだと思う。
親衛隊長より付き合いの長い風紀委員長は知っていることだが、冷静さを失うと問答無用で手が出る足が出る。最終的には噛み付いたり、歯形どころかごっそり。なんてこともありえるくらい頑張ってしまったり、肉体の限界を無視したりするため、非常に他人にも自分にも優しくない。
吐くくらいなら噛み千切ろうとするな。という話なのだが、最近はこういったこともないので、置いておく。
「イライラしすぎだろ、生理か?」
「……ぼっきぼきにたたせたあと、ぼきっと折るぞ」
「……ナニを?」
「天国から地獄だナァおい。ほら、出せよ、公開プレイしてやっから」
「…あー…」
友人は暫く何か考えたあと、親衛隊長に何かお願いをしたようだ。親衛隊長は快く頷くと、パンダの檻に群がった観客たちを散らしていった。
「ああいうの、嫌いなんだろ?」
「よく解ったな」
「悪かったな、俺が集めたんだろ?」
「そうだ。よくお分かりで」
生徒会長になったときに俺は真っ先に言ったのだ。
物珍しそうに見物されるのは好かないと。
それはもう、何度も何度も刷り込むように。
リコールされた会長が何を言うんだ。という話ではあるのだが、珍しいもの扱いで見学されるのはそういうものだと割り切った状態でないと、非常に疲れるものがある。
割り切れている部分はいいのだが、割り切れていない部分でそうなった場合、なんとも気疲れするというか。最終的には苛立つ。
気を使っているつもりもないし、押し上げられてるつもりもないのだが、どうも、それなりに使うものがあるらしい。
「てめぇっつーイレギュラーがほんと、イライラする」
「なんか嫌われてるようで、心臓が冷えるな」
「それでも嫌われてねぇって思ってる辺りが自信家だな」
さっき話したように鼻で笑ってやる。
「まぁ、好きだが」
「……そういうのを不意打ちって言うのを知ってっか?」
「しらねぇワケがねぇな。わざとだ。友情の域を超えないという制限がついているが、言われるのは嬉しんだろ?なぁ?」
まぁ八つ当たりも含めて、残酷なことをしている。
他所様の生徒会長様も頭がよろしかった。
俺を見たまま、眉間に皺をよせ、困ったように笑った。
いい男が苦笑なんてしたら、さまになって仕方ねぇな。
と俺はもう一度鼻でその様子を笑った。
「それでも好きだなんて俺も重症だ…」
呟いた友人には気がつかないふりをしておいた。ご愁傷さま。