下界の奴らを会長と風紀委員長に任せている間に、とある会議が行われた。
「さて、会議を始める。司会は図書委員長、櫻木(さくらぎ)が行う」
「書記は、文化部長七南(なななん)がさくっとつとめまーす」
いつも通りに真面目で堅物っぽい図書委員長が司会執行を宣言し、書記はこれもまたいつも通り図書委員長とは仲良くなれそうもない文化部長が務めていた。
二人が親友であるとか、この際どうでもいい事実だ。
「何故、俺はここにいるんだ」
「発言は挙手をしてから、願う。元会長」
俺は顔の前で組んでいた手を丁寧にはずし、左手を机の上へ、右手を顔の横へ動かした。
「元会長、斎」
「……何故、俺は、ここに、いるんだ?」
俺の疑問に答えたのは、美化委員長だった。
優雅に挙手した美化委員長に発言の許可を与え、図書委員長は席に座る。
美化委員長の話はいつも長いからだ。
「この会議は、風紀委員長および、現会長に内密に行われています。二人ともの秘すべき心の内を応援する……ぶっちゃけ二人ともさっさとくっつけよ、くっそ、もどかしいなという気持ちで行われているっていうか、会長が一言呟くだけであの二人はくっつくと思われます」
「いや、それはよけいなお世話という……」
「発言は、挙手を……ああ、会長、もう挙手されてたんですね」
「つうか、会長じゃない。おまえら、落ち着け。俺は会長じゃない」
それが何か?と言わんばかりに、各席に座っている長と呼ばれる連中が、一斉に俺を見た。
「会長。貴方が会長と呼ばれるのは仕方がないことです」
「風紀副委員長、挙手はしっかりしてください」
「失礼。現在の会長が悪いとか、頼りないとかそういうことではありません。良くも悪くも、大変影響力が強く、かつ、なんか、もう、なんつーかつえぇんだよあんた。あんたの名前、会長以外になんかあるの?頂点極めちゃってるっつうか、むしろ斎慶賀閣下だよ。あんた、斎閣下だろ。誰か、今すぐ閣下って役職作れ」
「賛成の方は、挙手を」
過半数以上というか、俺以外の連中は手を挙げやがった。
「では、賛成多数ということで、今から、斎慶賀閣下と言うことで」
「待て待て待て、それ通るのおかしいっつうか、閣下って敬称だろうが。てかなにするんだよ。俺は仕事しねぇからな?」
「はいッ」
明るく体育部長が手を挙げた。図書委員長が頷く。
「生徒会の仕事を教師や委員会に分け与えてずいぶん改革したみたいすけど、風紀委員会がまだ抱えている仕事がたくさんあるじゃないっすか。ふつう、風紀ってのは、学内の風紀をただすのが目的ですし、報告書は必要すけど、あれだけの書類仕事と警備員的なものが必要な訳ではないっすよね。かいちょ……閣下も知ってると思うっすけど」
「ああ…まぁ、つか、閣下やめろ」
風紀副委員長が再び手を挙げ、にこりと笑った。
「かいちょ……閣下と風紀で、警備と風紀の仕事、書類の仕事を分けてですね」
「それはいいと思うが、閣下やめろっつうか、それ俺がしなけりゃなんねぇ仕事なの?」
会議室内の全員の目がこちらにむいた。
貴方以外、誰が?
奴らの目が訴えている。
いや、いるに決まってる。他にも、いるはずだ。
「となったら、閣下というのは、ちょっと役職の名前としてふさわしくないですね」
「そうだね、閣下、敬称だしね」
そして、誰彼と自由に話し始めた。別にかまわないが、もうすでに図書委員長が仕事を放棄している。
「代表取締役ってのは」
「いや、この際海外風に、ボスとお呼びした方が」
「ボス!」
「いいですね。よっ!大統領!!」
閣下もイヤだが、ボスもイヤだ。
俺は会議室にいる連中を睨みつける。
皆、一様に黙った。
「では、挙手を……」
今更になって思い出したかのように図書委員長が挙手を求めてきた。
何故か俺以外は、満場一致で、俺をボスとすることにしたらしい。
「おい」
「さ、ボス!なんだかんだ、会長より言いやすいです、ボス!湿気た恋愛してる奴らにカツを入れてやりましょう!」
「ボスも納得いかねぇけど、それ、俺の仕事か?」
「貴方以外に誰がやるというんですか!」
何故、定例会議といわれるこの会議で、こういうことが起こるのか解らない。
「かい…ボス、あきらめましょう。貴方ですから、仕方ありません」
副会長が諦観の笑顔で、俺に囁いた。
効果は絶大だ。

next/ 色々top