俺の寝室で恋人達がイチャイチャしていた頃、俺は下界の友人の部屋に押しかけていた。
客室の一つで、下界の友人は他の二人とも同じ部屋で仲良く寝泊りしているようだった。
「……斎、おまえなぁ……」
頭が痛いというような顔をされる。
それもそうだ。すっかり手懐けてしまったワンコとニャンコを侍らせて、学園からしたら客人とはいえ、この部屋の一時でも主人となっている人間より悠々とソファに座っていたら、誰だって物言いたくなるだろう。
「何度もいうようだが、俺は可愛いものは甘やかす主義だ」
「俺は甘やかしてくれねぇのにか?」
「お前は友人であって、可愛い友人というわけじゃないからな」
俺の両脇で、各々楽しんでいるワンコとニャンコにたまにボディタッチしながら、偉そうに断言する。
「大体お前は、俺に甘やかして貰いたいわけじゃないだろ。冷たくして貰いたいとかいうわけでもないだろうが」
侍らしている二人から手を離し、ソファからたつと、二人から不満そうな視線を向けられた。誤魔化すように笑ったあと、詰まらなさそうにテレビのリモコンを手に取った友人の隣に立つ。
「どうして貰いたい?一宿の恩だ、ちょっとくらいなら叶えるぞ」
テレビの電源をつけたあと、映し出された番組表を見て操作をしながら、友人は適当に答えた。
「傅かせて足にでもキスさせたい」
俺が相手にしていないと思っての発言だ。
解っているが、俺はやるといえばやる。まだ、この友人は俺というものが解っていない。
俺は即座に座ると足を手に取る。
「……ちょっと待て、マジでやる気か」
「風呂上りでラッキー」
「いや、そういう問題じゃねぇよ。プライドは?」
「この程度で折れるプライドは持っていない。大体罰ゲームみたいなもんだろ」
本当に嫌そうな顔をされてしまった。
懐いている二人にいたっては、沈黙して、恐らく成り行き見守っている。
「俺とこういうことするのは、罰ゲーム程度なのか」
「そうだが?……お望みとあらば、しゃぶってやろうか」
不機嫌を絵に描いたような顔で、俺の手を足を動かすことで払うと、友人は何度か口を開閉させた。
「そういうのは望んでねぇよ」
「意外と気が長ぇなぁ……」
「……さっきの、セックスしてぇだったらどうする気だ」
不機嫌ながら、俺に暴力を振るうつもりはないらしい。初めて会った時、人の手を踏みつけていた男の発言とは思えない。
「起つ自信がない」
「突っ込みてぇんだけど」
「そりゃ、起たなくても問題ないか。ご遠慮願いたい。そこはさすがにな」
しばらく、友人はギリギリと歯軋りをしていたが、大きな大きなため息を吐いた。
「さっきのも、ご遠慮願え」
「あの程度のことがか?」
「……お前くらいのやつにされたら、調子乗るだろうし、俺の他にもやってると思ったら腹立って仕方ねぇから」
傅いたまま、鼻で笑ってやる。
「狭量だな」
「お前だから腹立つんだよ」
苛立つ友人を見上げたまま、意外と可愛いことを言っている友人に、意識して柔らかく笑う。
「程度の低いやつなら性別問わずごめんだ。俺も、お前だからやってやってんだよ」
今日は、言いたいのに言ってやることができないという顔をよく見る日だ。
友人は口をあけたまま、俺を踏まないように立ち上がると、結局何も言わず寝室へと向かってしまった。
「照れちゃって、可愛い」
呟いてしまった後、俺は首を傾げる。
「ちょっと怖くてサドっけあるけどいい男である友人に、告白された後、まだいい友人続けてたら、急に可愛くて、ちょっとときめくのは恋だろうか」
「斎さん、それはちょっと、恋なの?」
「恋、かも?」
ニャンコとワンコも解らなさそうに首を傾げた。
友人でも可愛いものは可愛いので、ちょっと困った。