見てんじゃねぇよボケが。


お袋によく言われた。
植田さんちの息子さんはよくできた息子さんで。
そりゃ、俺はうっかりこの辺では、手のつけられない札付きの不良なわけで。
高校にもろくすっぽいかず。留年しているわけで。
そんな息子に比べたら、そりゃあよくできた息子さんだろうよ。
と思ったもんだが。
まぁ、実際会ってみると、なんとも律儀な息子さんだった。
俺に付き合って、学校から離れたそこで、補導されそうにない店を選んで、はいって涼む。
ああ、店主のおっさんが、何か嬉しそうにこっちをみている。
不良学生か。おじさん、そういうのかくまうのあこがれててみたいな顔。
止めて欲しい。
確かに、中学二年から、高校一年二回目まで、不良をしていた俺は年季が入ってるが、一応、止めてはいるし、そんなぶっそうなことも恐らくない。
氷が乾いた音を立て、揺れる。
俺は、溜息をつく。
「…俺と、付き合ってほしい」
意外性がある言葉が俺を襲う。
京一、正直趣味がわるい。
こんな天然ぶってる…もしかしたら、本気で天然と思われているかもしれないが。
そんな人間に惚れるのもどうかとおもうが、本来の俺に惚れたとしても大変難儀な趣味だ。
だいたい俺は男だ。
告白された俺といえば、男か…べつにいいけどなぁ程度だけれど。
さて、返事はどうしたものか。
モラルに関しては俺に求めてはいけない。跡継ぎ云々に関していうなら、学生の恋がそこまで続くのかというのも甚だ疑問でしかない。
そして、俺は生来、内にいる人間以外には残酷だ。
今のところ、弟は、半分の血のつながりしかない外の人間でしかない。
「うん、いいよ」
などと明るく返事する。
だって、そういえば、弟は驚くだろう?それがいい。
別れは、最低になればいいなぁなんて思いながら。
兄弟なのだ。半分しか血が繋がらなくとも。
俺はそれを知って承諾する。それがばれて別れるとなってみろ。弟は兄に何を思う?近親相姦に対する絶望?それとも、愛人の子としてのひけめ?
なんだろうなぁ。絶望する姿が、見たかったんだ、そのときは。
でも、京一は半分でも、間違いなく俺の弟だった。
それを実感するのは、ワリとすぐ。
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