「植田くんどうしたの、こんな夜中に!」
驚いて見せた俺の迫真の演技はどうだったのだろう。
おそらくわざとらしかった。
何かばつのわるそうな顔をした京一を心配そうな、それでいてちょっと嬉しそうな顔で見詰める。正直、面倒くさい。
「あ…いや、その…」
「週末、ダメだった?」
ダメだったら、携帯でおしらせしろよ、ばーか。と思いつつ、首をかしげる。この演技、非常に疲れる。
しかも、けして可愛い姿ではない…むしろ、もっさりしているといっていい男がしてもまったく可愛くない。
「いや」
じゃあ、なんだ、はっきりしろよ。とは言わず京一を眺めると、京一は暫くして、こういった。
「知り合いが、このマンションに消えていったんで、追いかけていた…ん、だが…」
見失ったって?
知り合いって誰だ。
と思いながら、マンションを見上げる。
まさかあのワンコ二匹ではなかろうな。
「そっかー俺にあいに来てくれたんじゃないんだー?」
本当に、自分でやっていてなんだが、気持ちが悪い。
俺ならばこんな野郎は殴りたい。
京一はどちらかというと引き気味だな。付き合うというのも、本気ではないだろうことが伺われる。
俺のいうことに、なんということもできず苦笑を漏らした京一は優しいほうだ。
「うん、まぁ、週末楽しみにしてるよ?あ、あとね、俺が此処まで降りてくるまで、誰も見かけなかったよ。もしかしたら、住んでるのかもね」
すっごい偶然!といってはみせるものの、どうでもいい。
「そうだな」
なんて、京一もどうでもいい返事を返してくれた。
それにすら気がつかない鈍感のふりでニコニコ笑って、手を振って、お休みというだけの作業を、京一が何を思ったか、止めた。
キスをする。という、安易な方法で。
ああ、意外に上手いなぁ。と思いながら、反撃をするのをこらえた。
動き出しそうになる舌を押さえるのに一苦労しながら、一瞬遅れて気がついたように、弱弱しく抵抗をしてみる。
本気ならば、気に入らなければ噛み切らんばかりに舌に噛み付くし、べつにいいなら反撃を加えている。
抵抗をしたくせに、うっとりしたふりをして、少し反応を遅らせてから、はっとして、『バカッ!』などといって京一の手を振り払い走る。
ああ、マジメンドクサイ。
遊園地で破局ってのもありかもなぁ。なんて、少し思いつつ、ニヤリと笑う。
できることなら、遊び倒したい。
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