「…あなたには力なんて必要ないと、思います」
久しぶりにちゃんと顔を合わせた転校生は、何だかんだ俺を見ていたらしい。
「あなたはこんなものがなくても…強い」
「強いか弱いかは問題じゃねぇ」
もうすでに敬語を使うほどの気力はない。
もとより俺以外の人間は、えらくフランクにお付き合いしているようだし、今更気にするものでもないのだろう。
転校生は俺の言葉の意味だけを探る。
「有るか、無いかだ」
無くても今の俺ならば自分自身の身ぐらい守れるだろう。
その上、守ってくれようとする連中もいる。
しかし、俺は守れる力が欲しいわけではない。化け物を倒す力が欲しいわけでもない。
化け物を手に入れるための力が欲しいだけだ。
転校生が言葉をつまらせている間に、控えめなノック音が俺の耳に入る。
「入って大丈夫かな?」
「入れ」
レセプションルームの一室。
転校生と向かい合ったまま、俺は一つうなずく。
これ以上、今のところ、転校生のいい返事は期待できないと思ったからだ。
控えめにノックをしたのは副会長だった。
「君のところの隊長さんが来ているよ」
「あぁ…わかった」
昔、通っていた学園では親衛隊なるファンクラブが俺にはあった。迷惑に思っており、やっかいな集団で、俺はこの学園でそれができそうになったとき、必要ないと言った。
その時の俺に必要なのは武器で戦う力だった。
断る俺に、許可をとりにきた代表者は言ったのだ。
ならば、僕らはあなたの力になりますと。
そして、あいつらは小隊を作った。
「シギ様、新しく入隊した一年生を二人連れて来たのですが…また、後程にしますか?」
戦うことを要する隊だ。
入隊には試験がある。
その入隊試験を合格する人間は、少ない。
「大丈夫だ」
入隊できるということは、それなりに力があるということだ。
転校生は第一候補であるが、この通り、俺の気に入らないことはいうし、化け物を呼び出す気が殆どない。
だったら、こうして俺に従うつもりで集まっている連中から探した方が早い。
今のところ、そこには理想の召喚者がいない。
だから、新しく入った人間は連れてくるようにいってある。
「そういうわけだ。何を言いたかったかしらねぇが、その気がないなら黙れ」
こちらがせっついているわけでもない。
誰とでも仲良くなければならないわけでもない。
嫌悪して悪意を向けているわけでもない。
近寄らなければ言うこともない。
…少し、哀れに思うところはある。
もしかしたら、まわりの連中に俺の境遇を聞いたのかもしれないし、そういう状態の俺がこうしてここにいることに思うところがあるのかもしれない。
「俺は…!」
「あ?」
「俺は、会長が、気になるんです!」
「…正しいことがどうの、とかいうんなら他当たれ」
「そういうんじゃないですけど…なんとなく…」
「とりあえず、今は、お開きにしてもらう。俺には俺のやりてぇことがある」
まぁ、化け物関連でしか動いてねぇけどな。