新入生歓迎会から大規模な化け物掃討戦とも言うべきものが何度かあった。
それは何度目かの化け物退治だった。
廊下を歩いているときに化け物どもに進入されたときは、災難の一言に尽きる。
その上、結界が遠いとなると、もう戦うしかない。
戦闘時以外の帯剣は許可されていない俺は、リツに守られるしかない。
計算されつくされた術は、とっさのことに弱い。少し間違えただけでも発動しないそれを動揺しながらできるわけもないし、動揺していなくとも札であるとかああいうものを作っていても、発動させるための条件を満たすことができなければ俺には使えない代物だ。
そして、俺は発動させるための条件がそろえられない。
溜息しか出ない。
リツは俺を守ることができるが、結界を張ることはできない。
リツは強い。しかし、身を盾にしてまで俺を守ることはしないだろう。俺もそういうのはいらない。
武器のあるところまで走るか、それともひと気のいないところまで走るか、結界があるところまで走る。
走るという選択肢しか俺にはない。
走りながら携帯を取り出し短縮三番。
リツの攻撃から逃れた化け物の攻撃を避けつつ、三コールで繋がった携帯の向こう側に一言。
「武器を頼む。第三棟三階空き教室」
霊障などが起こると機械はとにかく弱い。
そのため、学園は特別な携帯を作っているのだが、まだ試作段階だ。
生徒会長特権をフルに乱用して得た試作機は一応こんな状況でも使える。
ただし、一度使ったらもう死んだも同然だ。
一分も話せないし、機能しない。
そのため、こんなことしか頼めない。
俺の優秀で少数精鋭な部隊はそれでも俺に武器を持ってきてくれるだろう。
どういう形かは解らないが、死ぬような真似だけはやめてくれといってあるため、できるだけ安全な方法で届けてくれることだろう。
俺は階段を駆け上る。
「シギってば、人使いあらーい」
口笛を吹いたリツは余裕で、紙飛行機のようなものまで飛ばしてしまっている。
そんな暇があったら後ろから追いかけてくる化け物どもをなんとかして欲しいものだ。
紙飛行機は化け物どもを切り裂く。
意外と役にたっているのも何か癪だ。
「荒くて結構。てめぇは余裕だなもっと働け」
「ひどい!無償なのに!」
「契約してんだからキリキリはたらけ。つうか、報酬は娯楽だろ?俺で楽しんでるくせに無償とかいってんじゃねぇよ」
階段を駆け上がると、どこのクラブも使っておらず、不良どもがサボりに使っている以外は、よからぬことにしか使われていないような教室に俺は入る。
入ってすぐ、黒板の少し凹んだ中心部にチョークで一文字何かをかくと、何かが閉まる音がした。
「あ、ここも結界張ってあるんだ?」
「逃げ込む場所は各場所に確保してある」
いつ化け物どもがやってくるか解らないためだ。
一応結界の作動スイッチのようなものは設けてあるにはワケがある。
もともとこういったよからぬことに使われる場所はよからぬ力がたまるものだ。
俺はそれを利用して結界をはったわけだが、これをはりっぱなしにするとよからぬ力はなくなる一方で、なくなったらなくなったでここでよからぬことをしようというやからもいなくなり、力はえられなくなるのだ。
その関係で、よからぬ力がたまるように、また、そういった力を利用する方向に仕向けている部屋に分散されるようにしてあり、結界が発動したままにならないように、作動のスイッチを設けてあるのだ。
この、よからぬ力がたまる部屋は複数用意してあり、その複数も定期的に結界を張ることでたまり過ぎないようにしてある。
その上、風紀の連中にその部屋を教えてあるため、大体よからぬことがあったらそれらの部屋だと当たりがつけられ、大変機能的になったとの話だ。
人は意外とそういったものに引き寄せられてしまうらしい。
見える今なら、結構よくわかる。
「あーあ。じゃあ、余計なお世話、しちゃったかも」
リツがそういうので、俺は思わず怪訝な顔をした。