「廊下みてごらんよ」
言われたとおり廊下をみると、そこには先ほどリツが投げた紙飛行機が浮いていた。
「あれがどうした?」
「問題はアレじゃないんだよね」
突然、廊下に溢れた化け物どもが、何かに嬲られる。
俺の体質に引き寄せられ、増えるだけ増えた化け物どもは、まがまがしいそれに嬲られて、悶え始めた。
化物どもはあらゆる場所に身体を打ちつける。見ているこちらも苦しくなるような、瘴気。
化け物たちにすら強いそれは、人間なんかが浴びたら死んでいたことだろう。
その瘴気の中、どこからどうやって降りてきたのか、廊下の化け物どもがのたうって壊した窓から、問題児がやってきた。
皮肉に歪んだ口元がよく似合うその姿は、余裕すら感じる。
「坂上紅丈…?」
「最近ちょっと接触してみたんだよねーあの人って強いでしょー?」
「強い、が…」
ひどい瘴気だった。
その瘴気の中、燃え上がりも、消えもしない煙草も不気味だ。平然としている坂上が、目の力をコントロールしても気持ち悪いほどの瘴気に包まれていた。
「あ、アクセサリー外してるんだ。結構心狭いってことかなぁ…」
瘴気のあまりの強さに、結界が悲鳴を上げている。
坂上の瘴気はここまでひどかっただろうか。
確かに、目が痛いほどではあったが、ここまでではなかった。
俺は今、眼が痛いどころか頭痛までしている。
目を開けていることさえ容易じゃない。
ただ、坂上が煙草の煙を吐くたび、何かが避けていくように綺麗な線ができ、それが広がって消える。
何か、特別な呪術かなにかなのかもしれない。
坂上が何か棒のようなものを取り出す。
どこから取り出したかも解らないそれは、武器なのだろう。
頭も目も痛いうえに、瘴気がひどすぎてよく見えない。
その中を切り裂くように俺の武器が飛んできた。
いわくつきの剣は瘴気さえも切り裂き、教室の窓も結界も割って、俺の元に届く。
どうやら優秀な部隊長は、武器だけを呪術で飛ばしてくれたらしい。
それだけに集中することによって何より早く、安全に、誰にも邪魔されないように。
その武器が瘴気を切り裂いた瞬間、俺は見た。
坂上の武器は、日本刀。
辺りにばら撒かれた瘴気を吸って輝く、妖刀。
それが一閃されるだけで、瘴気は一瞬にして消え去り、化け物たちが息を無くす。
刀に吸われて瘴気が薄くなったのにもかかわらず、俺は頭を抱える。
何かがフラッシュバックして、目の前がチカチカするのだ。
過去も未来も、現在も。
交ぜて見える気持ちの悪いこの目は、コントロールしている。
しなければ、人間の限界なんてすぐに超えてしまう。
色々なものを使い、色々なことをして、コントロールすることも覚えた。
しかし、たまにこうして苦しめられる。
坂上の何かを俺に見せる。
坂上自体は何度見てもそんなことはなかった。
武器なのか、瘴気なのか。
もしかして、すべての条件がそろったからなのか。
目から叩き込まれた情報が処理できず、俺は目を閉じ、頭を抱えたままその場に蹲る。
今は化け物どころではない。
俺がうずくまり、動けないでいると、アクセサリーがぶつかる金属音が近くで聞こえた。
「保健室におねがいねー」
「てめぇが行けばいいだろ」
「俺はやらないからね。頑張って」
目を閉じたまま、意識が遠のいていく。
最後にかすかに感じたのは煙草のような、薬剤のような、何かが焼けた…煙の匂いだった。