相席
なくなっていくものを目の前に、力が欲しいと願った俺は、馬鹿だったのかもしれない。
力さえあれば解決できると思っていた。
力さえあれば何も失わずにすむと思っていた。
だから願ったのだ。
力が欲しい。
それはたまたまだったのか、偶然だったのか。
濃い瘴気の中、ソレが言ったのだ。
『その願い、叶えてやる。変わりに、俺に身体を一時的に貸してくれ』
俺はそうして力を手に入れ、ソレに身体を一時的に貸した。
それの力は莫大といわれるものだった。
親切にもコントロール方法も、どうやって使うかも教えてくれたのに、俺はそれをうまく利用することができなかった。
強い力は、それに伴うそれなりの何かがあるものだ。
それが一家離散…どころか、一つのぬくもりも残らないというものだった。
俺は一人になった。
その頃にはソレも俺の中から居なくなっていて、俺は何かに頼ることができずにいた。
結局、式を手に入れることで一人ではなくなった。
それを思って、俺は学園の生徒会長に言った。
力があってもいいものではない。
しかし、会長はいうのだ。
それでも力があるか、ないかだと。
求めるものがあり、それを手に入れるために力が欲しいと。
その気持ちは俺と同じような気がした。だから気になっているのかもしれない。そうも思った。
俺は会長がすきなのかもしれない。でも、そう思うと違和感を感じる。この感情はたしかに、好きだという感情だ。けれど、好きだと思うと、違うと何かがいう。
何が違うのだろう?会長本人に、好きだといってはいけない気がした。
だから、気になるといった。
けれど、それを言った瞬間から俺の中で違和感は明確な答えをだす。
これは、俺のじゃない。
誰かの残した、誰かの気持ちだ。
誰かの感情だ。
感情だとか気持ちだとか形がなくて不鮮明なものを人の中に残していけるほどの。
ひどく寂しい。
俺の感情でなかったこともそうだけれど、その感情がそれほど強いというのに、俺に残したことでその誰かの気持ちは届かない。伝わらない。
誰が残していったのかは解る。
俺の身体を使った奴のものだ。でも、その使った奴が誰なのか、俺には解らない。
だから、この気持ちは伝わることはないのだろう。
俺はそいつを憎むことはあっても、感謝したことがない。
憎むのだって本当はお門違いなんだ。
だから、会長にこの気持ちをつたえることはない。けれど、会長の邪魔をするのもよそうと思った。
それはこの残された感情が、俺のものではないかと思えたほど、強く、会長だけを想うからだ。
俺のものでなかったことが、残念だと思った。
その喪失感はまるで失恋みたいで、俺は苦笑するしかなかった。
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