ひとりこと4



「てめぇが、逃げるんだったら上等だ。俺はてめぇを追いかけるだけだ…だって。あいされてるねー」
頭痛っていうのは、こういう時に起こるものだったのだなと思いながら、俺は苦笑する。
「シギ、言ってたよ。傷つけられようが、それで死んでしまおうが、あんたにちゃんと会って、あんただって確かめて、あんたに言いたいこと沢山あるって」
「そうかい」
投げやりに応えて、煙を吐き出す。
最近、俺の最愛は俺をさがすようになった。
俺が毎日来ているという屋上によく足を運んでくれるし、俺を見かけたという情報さえあればそこに向かうようになっていた。
今や、会長の部隊は俺を探すための部隊だ。
「ねぇー逃げる必要ってあるの?」
「何度言わせるつもりだ?」
「それこそ、何度言わせるの?シギはあんたを傷つけたりしないよ。もう。あんたはさぁ、臆病だよね。長いこと生きてて受け入れられることなんてあっても、拒否され続けちゃそうかもしれないけどさぁ」
それだけのせいと言えるのだろうか。
もともとこういった質なのではないだろうか。
煮え切らない俺に、そいつ…今はリツと呼ばれている男はいった。
「そうそう、シギから、もう一つ」
「あ?」
俺もこの男の話を聞かなければいいものを、未練なのか、執着なのか、ただ意気地がないのかもしれない。
おとなしく聞いてしまっている。
「愛してるぜ。だって」
煙を吸いすぎて、むせる。
「あんたに触れたい。あんたに会いたい。あんたが欲しい。俺はあんたを捕まえる…愛してるぜ。だーって。いやぁ。ほんと」
愛だねぇというつぶやきは遠くなる。
リツはどうやらこの空間から移動したらしい。
俺は溜息と共に煙を吐き出し、眉間に皺を寄せる。
たとえば、俺が、もともとなんの問題もない、化け物でもない、人間だったとして。
そしたら、あんな、強い、力ある人間に、好かれただろうか。
「無理だな」
それでも、俺は、あの男を好きになったのだろう。

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