空事1
師匠は身勝手だ。傲慢だ。自分勝手だ。
俺をあわせて三人も弟子をとり、子育てみたいなことをしておきながら、その態度が丸くなるなんてことがなかった。
師匠の弟子は三人。
一人は俺の兄弟子にあたる人で既に師匠の手から離れている。
もう一人は俺で、師匠の二人目の弟子。なんだかんだとこき使われている。
最後の一人はまだ子供で、恥ずかしがり屋で無口だ。
とある学園からきた依頼は、そんな真ん中の弟子にうってつけの依頼だった…とは、師匠の言だ。
俺にしてみれば、師匠がやれば一番確実で早い仕事だった。
クソほど山奥に位置する学校に、学校からきたハマーにのってきた。
門の前でおろされて、見上げる門は木々と交ざって森なのか門なのか解らない。
解らないが、門といわれた場所から小さく見える建物が校舎だというなら絶望したい。
もっと校舎の近くにおろしてくれてもいいではないか。
登下校の時間でさえ開いてないと思われる門の前、俺は迷って、鉄格子に触れる。
こういう門は大抵横スライドだ。右に左にとひっぱってみたが開かない。まさか引いたり押したりで開閉かと思ってやってみたが、やはり開かない。
師匠、早くも行き詰まりました。
「貴方が、転校生の三木智人(みつきのりと)くんですか?」
声のする方を見てみると、そこには王子様がいらっしゃいました。
異国情緒溢れる…いっそ、異世界観溢れる門の鉄格子を挟んだそこにいたのは、金髪碧眼の柔らかな笑みを浮かべる人だった。
「すみません、ここ、学校って聞いたんですけど」
鬱蒼と生い茂る木々に、王子さま。
これきっとあの遠くの建物は城で、俺は選ばれし勇者的な…ものにはなりたくない。しかしながら、今まで師匠にされてきたことを思い返すと勇者になったほうが懸命な気もしてきた。
「…何を馬鹿言ってるんですか?学校ですよ。質問に答えてくれませんかね」
王子さまは初対面の人間にも手厳しい人のようだ。
「ここが学校なら、そうです。転校してきた三木智人です」
「学校ですよ。何度言わせるんですか?」
二度です。
答えずに曖昧に笑って、俺は門を開けてもらう。
門が開くと、そこには開けた道が広がっていた。
レンガを敷き詰めた道は、ここが日本であることを忘れさせる雰囲気を放っていた。灰色のレンガに、たまに混じるオレンジのレンガ。
凸凹としそうなものだが、レンガを重ねるためにできた隙間以外は綺麗にカットされたレンガで歩き心地もなかなかいい。
ただ、その道は校舎に行くには遠すぎる気がする。
「ここから理事長室までどれくらい時間がかかりますか?」
「一時間もかかりませんよ」
一時間もかかってたまるかよ。歩いて一時間が敷地内とかいうなら車か自転車よこせよ。
そう思いながらも、俺は王子さまの後ろを歩く。
「申し遅れました。僕は副会長の宮代野(みやしろの)です。理事長室までの案内を仰せつかりました」
後ろからついて行っているため、王子がどんな顔をしているのかは解らない。
ただ、声はとても柔らかい。耳に心地よい響きである。
「こちらにこられる際、誰かに何か説明されたりしましたか?」
「一応、特殊な学校だとは」
「どのように?」
俺がされた説明を思い出す。
俺はそれをそのまま言葉にした。
「かっこいいお兄さん方がきゃあきゃあいわれ、嫉妬に狂った男どもの祭りがある男子校。特殊なのはその習慣だけでなく、退治屋の卵や退治屋が集い、日夜その腕を磨いているところにもある」
「だいたいあってますけど…その説明した方は、ざっくりと説明をされたんですね」
俺の師匠が説明をしてくれたのだが、本当にざっくりとした説明だった。
「いや残念ながら、俺はきゃあきゃあ言われないタイプだし、嫉妬に狂う男どもに近寄りたいとは思わないし、退治屋として腕は磨くかもしれないけど、たいしたことないし」
毎日毎日、師匠といると退治屋としての自信とかそういうのはなくなってしまう。
それくらい師匠はすごい。
師匠いわく比べる相手を間違っているとかいう話で、俺は一応師匠の弟子としてどこに出しても恥ずかしくないくらいには仕込んであるそうだ。師匠といると自分自身の実力ってやつがよくわからないし、師匠のまわりも尋常じゃないから、師匠のいうところのどこに出しても恥ずかしくないがどの程度なのかもわからない。
「そうなんですか?編入なんてしてこられる方は大体実力者ぞろいなんですが…」
副会長の宮代野さんは、どうやら手厳しいというより素直な人のようだ。
「そうだなぁ…強いて言うなら、結界術系が人に誇れるかもしれません」
師匠はあらゆる現場でまんべんなく俺を使ってくれるが、結界術で俺を多用するから、ちょっと自信がある。
「それは…うちの学園では大変価値ある才能ですよ」
「そうなんですか?」
「ええ…その方にこの説明はされていないのですか?」
宮代野さんの話ではこうだ。
俺が今日から通うこととなった学園は、大変重要な封印の礎であり、常にほころんだり壊れたりする結界を治したり、封印のほころびから出てきた化物を退治したりしている。
化物たちを退治するのは、教師、生徒をひっくるめた学園に所属しているすべての人間で、結界や封印系は被害を最小限にするためにも特に重宝されているらしい。
なるほど、師匠が俺にピッタリの仕事といったわけだ。
俺はため息をつき、師匠がいるだろう場所がある方角に向い、三度手を叩き、ひたすら呪いの言葉を頭の中に浮かべた。
くそう、人身御供だ…!
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