師匠に恨み言を心のなかで溢しながら、歩いてたどり着いた理事長室。
理事長は大変な美形だった。
宮代野さんが異世界の王子さまなら、理事長は英国貴族だ。
きれいに撫で付けられセットされた髪、ダブルのスーツを着こなし、きれいな立ち姿をこちらにさらしていた。
「こんにちは、ようこそ。三木智人くん。学園理事の中久逢月(なかひさあづき)です」
「は、初めまして…」
柄にもなくきらきらしたオーラに緊張して吃ってしまった。
俺にほほ笑みかけてくれた理事長は、それはもう楽しそうに笑った。
「ふふ…PBCの会長の二番弟子とは思えない発言だね」
パラノーマルバスターコール。通称PBCはその名の通り、身の回りに起こる迷惑な超常現象を解決するために設立された会社だ。
超常現象というと、怪奇現象といわれるものから、超能力関連、UFOやらUMAやらと…とにかく、常を超えた現象のことなのだが、PBCの仕事は人に損害をもたらす怪奇現象や、自らの力を扱いかねている能力者による暴走などをどうにかすることを主としている。
殆どは怪奇現象といわれるものの解決が仕事となっており、化け物、モンスター、妖怪、悪霊などを退治することが、その仕事の八十パーセントを占める。
地鎮や、封印、結界などは神に仕えるとされている職業の人間が行うことが普通で、PBCから派遣されてくる人間はだいたい『退治屋』に分類される。
俺もこの学園には退治屋として依頼されてやってきた。
「…もしかして、師匠とお知り合いですか?」
「うん、そうだね。友人だよ」
俺は理事長を見ながら、絶望した。
あの師匠の友達なんてろくな大人ではないと決まっているのだ。
そう判断したからには、俺も直ぐ様仕事モードに突入した。さっさと仕事をしてさっさと帰るためだ。
「今回のご依頼は、結界、封印の補強ですね?」
「うん、もちろんそうだけど…それだけなら転校してくる意味なんてないでしょう?」
「それ以外に仕事があるってわけですか…」
俺は現役高校生だ。
バイトくらいの働きなら未だしも、扶養から外れるような働きっぷりになんだか泣きたい。
「そう。その代わり学費も、寮費も食費もみーんなただだから」
俺が今日から住まうことになっている、この全寮制の学園は私立の学校だ。
奨学金制度は整っているものの、すべてがただになる程の成績をとるには並々ならぬ努力が必要である。
「それは純粋に…うれしいです」
正直に感想をいうと笑われた。
現金だけど、嬉しいことは嬉しいっていうのが得だ。時と場合によるけれど。
「俺じゃそんな好成績残せそうにないですし」
付け足して言うと、理事長はさらに笑った。
「そうだねぇ…僕の知ってるかぎりでも片手で足りちゃうくらいしかいないよ」
「今現在ですか?」
「いや、僕の見知ってる範囲で」
「…貴重な生きものですね」
「そうでもないよ。一人は今在席してて…会長をしているね」
貴重な生物という言葉について思うところはないらしい。
さらっと貴重な生物が学園に在席していることを告げた理事長に、俺は再び尋ねた。
「それで、他はなんなんですか」
「そうだねぇ…ちょいちょいっと何匹か退治してもらいたいんだよ」
ちょいちょいっと退治できたら、俺は師匠にさらにこき使われていただろう。
「できる範囲でやります」
「あれ?本気で謙虚だねぇ」