ここは美形の万国博覧会かと尋ねたいところだが、万国というほど国をまたがった美形度合いではない。それでも、多種多様揃えてみましたといった美形ばかりで、俺は少し食傷気味だ。別に食べてもいないし、味もみていない。見ただけだ。
「同室者も美形とはこれいかに…」
思わずポカンとすることや、怯えるということがなかったのは師匠の影響が強いだろう。なにせ、師匠は無駄に美形で、横暴な性格がそのまま顔面に出ている。だから、この同室者もきつい目つきのとおりの荒々しい性格で、無駄な美形に違いない。そう思った。
先入観って怖い。
「び……馬鹿言ってんじゃねぇよ」
美形でなければ強面と言われる類の顔だ。しかしながら、美形であるため、怖い顔でも非常に目に潤いを与えるに違いない。
だが、今日はもう、すれ違う生徒すれ違う生徒すべて、美形という事態に驚きより呆れがかっていた。
どんな飛びぬけた美形だろうが、もう驚かない。
「ええと…とにかくよろしく。三木でいいから」
「おう、よろし、く?」
何か納得いかないような顔をした同室者は、此花咲耶(このはなさくや)とお姫様の名前だ。名前もどうしようもないが、苗字はそれ以上にどうしようもないため、外見に似合わないとは言わない。苗字と名前が揃うことにより、ご家族にタケルさんかヤマトさんか、もしくは知り合いに日本武尊さんはいらっしゃいませんかね?とききそうになったが、なんとか飲み込んだ。
けれど、これだけは飲み込めなかった。
「姫とか呼ばれてない?」
「……殺すぞ」
呼ばれているようだ。
師匠は俺を睨むということはないが、非常に怖い人なので、姫の睨み程度では戦きもしない。
「そうか…なら、姫でいいかな」
「解った。殺す」
わかり易い同室者でよかったなぁと思いながら、俺は自分の部屋と思しき部屋へと逃げ込んだ。実力行使をされたら、負けたりするかもしれないからだ。怖い怖い。
ちなみに、ファミリータイプのマンションのようなつくりをしていた。つまり、一部屋にいくつか部屋があるタイプだった。
ドアを蹴る音がしばらく続いたあと、部屋は静かになった。蹴破られることがなくて良かったと心底安心した。
俺はそうして黙々と部屋を片付けて、外の様子を見ながら自分の部屋からでたら、姫は俺を見て眉間に皺を寄せたままこう言った。
「……飯、行くぞ」
姫は非常にいいやつだった。
師匠と一緒にしてごめん。