姫は実にいいやつだった。
俺に学園のことをどれくらい知っているかということを聞いてくるので、副会長にしたような説明を姫にすると、一度頭を抱えたあと、俺にひとしきり説明してくれた。
だいたいは俺の説明であっているが、接触をしないということは不可能だということを教えてくれたのだ。
まず、学園でトップアイドルとされている生徒会に、俺はすでに接触している。
それが副会長だ。
しかし、これは副会長の業務だし、授業中の出来事だったので問題はない。
生徒会には他に、生徒会長、会計、書記、各生徒会役員補佐がいるのだが、会長は補佐不在、その他三人には補佐が存在する。
その補佐もアイドル扱いだという話なのだが、その補佐の一人が姫なのだという。
「え…、ちょっと、距離おいていい?」
「やな野郎だな、てめぇ」
いや、冗談だけれども。
つまり、姫と同室という時点で俺は二人目のアイドルに接触していたわけだ。
これもしょうがないことなのだが、誰もがしょうがないと思ってくれることではない。
「大体、この学園に中途で入ってきた時点で一度は生徒会、風紀委員会に値踏みされるから、ひとしきり接触があんだよ」
そう思えば副会長は、編入してきた人間は大抵優秀だとそんなことをいっていた。
毎日化物どもと対峙しているというわけではないだろうけど、封印だとか退治だとかいう言葉が出るくらいには日常の出来事になっている、化物との遭遇。
それをなんとかするのが、生徒と教師という話なのだから、優秀な生徒というのは期待されるだろう。
生徒会や風紀委員会も、普通に考えたら優秀な生徒がなるものだ。
退治とか封印だとかに関わっているとなると、そりゃあ新顔が使えるかどうか値踏みしにくるのは当然だ。
これも仕方ないことだ。
これが値踏みされたときに優秀だと判断されたのなら、文句は半減するらしいのだが、判断されなかった場合は、ちょっと痛い目をみてしまうらしい。とても理不尽な話だ。
しかし、俺は理不尽な目にはよくあっていたので、遠い目をして回避方法を考えるところまで思考を飛ばすことができた。
「てめぇが誰もが目を見張る面だったら、文句はほぼなかったんだろうが」
この学園の基準はどうも、実力より顔であるようだ。
「家柄とかなんかあるか、権力的なものは」
「んー…PBC所属っていうのはどうかな」
姫が目を見開いた。
いや、姫を驚かせたかったわけではないんだけど。
「PBCっつったら、おまえ、優秀の代名詞だろうが!」
PBCは家柄に恵まれなくとも、実力がある、もしくは使える人間が所属する会社だ。
家族に疎まれた子供や、突発的な力を発現した人間などもPBCに所属していて、それらの人間をどういう分野にせよ使える人間にするのがPBCだ。…彼らに居場所を提供する代わりに働けという、簡単な仕組みである。
彼らは居場所を失わないためにも、必死で働く。
それが捨てられるという恐怖からというより、ここに居ることができるという感謝や誇りなどからくるあたりがPBCのいいところだ。
そんなわけだから、一部の業界にはPBCというだけで、尊敬の念を集める。
ブランド会社といっていい。
「いや、でも、ここにもPBC所属の人間いっぱいいるでしょ」
「その全部が優秀だっつうの…!って…」
そうこうしている間に食堂が騒がしくなってきた。
人が増えたから騒がしくなったというより、そこにいた人が騒いでいてうるさいのだ。
きゃーだの抱いてー!だのの声からアイドルがきたに違いないと俺は判断した。
そのうるさいのがだんだんこっちに近づいてくるのだから、例の値踏みが始まるのかなと、俺は微妙な顔をする姫から視線を外し、後ろを振り返る。