姫の視界にバッチリ収まっているだろうそこには、三人のまばゆい人たちが立っていた。
一人は副会長。王子様は歩き方も優雅だ。
もう一人はお前は本当に学生かというような落ち着き払った美丈夫だ。日本男児がでっかくなったらああなるんだろうなという美形だった。日本人って小さいから、さすがにあれは日本人規格外だろうと、俺は思う。
最後の一人はいやに現代的な美形だった。つまるところ、チャラチャラしていた。アクセサリーが多い、ピアスが多い。軽薄そうだし、姿勢悪いし、髪は微妙に長いし、なんかの雑誌に出てそうなかんじなのだが、顔の造形が整っているというだけでチャラチャラしていても安っぽい感じがない。
「三木くん、どうも。生徒会です」
俺に挨拶をしてくれたのは、そういうことはきっちりしていそうな副会長だった。
「あ、はい」
俺は思わず返事をしたあとに、首を傾げた。
「一人足りなくないですか?」
「会長は他にやることがあるそうです」
やっぱり珍しい生き物には会えないもんなんだろうなぁ…と思いながら、一応挨拶をする。
「ええと…三木、です」
ペコリと頭を下げると、生徒会の人たちも軽く頭を下げてくれた。
「うーんー…会長は『使える』っていってたんだけど、普通そうな人だねぇ」
「いやそれがですね、キサキ。資料によると、PBC所属の立派な退治屋らしいんですよ」
「あ、じゃあ、あれだねー。呼ばれたんだぁ?じゃあ、優秀な人だし、いきなり実戦とうにゅー」
「なるほど、そうなりそうだな」
一体何がなるほどで、いきなり実戦なんだろうというか、PBCイコールお仕事でここに来てるってことになるのか、秘密にしないでいいのか…と頭を回転させている間に、チャラチャラした人…キサキと呼ばれた人がカウントを始めた。
「ハァーイ。ごぉーよーん」
「ちょ、さすがにきたばっかりですし!」
そう言って立ち上がったのは、俺の前の席に座っていた姫だった。
キサキさんは姫にニコッと笑っただけで、カウントを続ける。
「さーん、にー…」
「姫くん、仕方ないですよ。キサキの予測は外れません」
「イーチ」
諦めたように姫がため息をついて、もう一度姫は椅子に座った。
「ゼロッ」
キサキさんがゼロというと、食堂の空気が一気に変わった。
温度が下がったといってもいい。
「……霊障?」
吐く息の白さに、俺は、その現象の名前を口にした。
霊が現れると温度が下がるというあれだ。
「うーん…この場合は、異界が繋がったっていうか…」
俺は一応結界修復をしに来た身だ。
異界が繋がったということは、このあたりにほころびがあるということで、今からもしかしたら仕事をしなければならないということである。
「飯も食えてないのに…」
「そういうのは…終わってからゆっくり食え」
ゆっくり食えるような状態で終わればいいのだが。
俺は思う。
霊ならば成仏させるという方法がある。しかし、モンスターや化物と呼ばれる類は、退治することが多い。退治できないのなら封印するという手もあるのだが、どちらにせよあまりその場を汚さずという方法をとることができない。
退治といえば聞こえがいいのだが、殺しているのだから当然だ。
吸血鬼のような灰となってきえてしまう類のものならいい。だって、身は残らないのだから。
化物どもは異界に住んでいる。だからこそ、その身を構成するものはこちらと異なっている。だから、死んでいしまったら消えてしまうものだって多い。
けれど、先ほども述べたような吸血鬼のように死人が蘇ったものや、こちらの世界で生まれたもの、こちらの世界のものを食べたものは、こちらの世界のモノで形成されている部分がある。
それが残ってしまう…つまり、死体であったり、その部位であったりするものがのこるわけで、その後食事をする元気が残らない。
しかも、人の形をしているならまだマシで、動いている時から人ではない形だったり、人に似せている形であったりされたらたまったものではない。死ななくても食事する元気が出ない場合だってある。
外見だけでなく匂いも伴ったりすると最悪で…つまるところ、食事なんて諦めろである。
姫はもしかしたらとても図太い神経の持ち主なのかなぁ…と思ったりもするくらいには、俺は異界との遭遇のあと飯が喉を通らない。
姫が遭遇すぐあとではなく、腹が減った時にじっくりという意味でいっているとは思っていなかった。
「俺が飯食える状態でいないという可能性もあるわけだし」
俺は俺の実力に見合わない現場というものに居合わせたこともある。
師匠がそれも経験だし、しておいたほうがいい経験だからといって連れて行ったためだ。
その時は師匠もいたし、そのレベルをねじ伏せることができる人がいたからそれでもよかったが、ここに、俺のレベルに見合わず、しかも誰も敵わないやつが出てきたらと思うと、気が気でない。
「だぁーいじょーぶ。かいちょーが、大丈夫って言ってたからァー」
会長はとても信頼のおける人間らしい。
けど、俺はあったこともないし、この学園にきたばかりで、会長がどんなひとかも解らない。
不安である。
「きますよ」
副会長の言葉とともに、空間の一部が裂ける。
キサキさんがカウントしている間に食堂の一部に移動していた生徒たちが結界の中にいた。
どうやら、誰かが結界を張って彼らを守っているらしかった。
できたら俺も守ってほしい。
PBCの仕事とはいえ、俺は戦闘向きではない…と、自分では思っている。何度もいうが、師匠には色々…本当に色々やらされたため、それなりに対処はできるが。
「実力拝見だな」
美丈夫がそんな冷たい言葉を落とした。
まいった、見せるほどのものじゃない…。