空席
「宮代野(みやしろの)」
宮代野時貞(みやしろのときさだ)。
なんとも時代がかった厳つい名前の男は、実に可憐な容姿をしていた。
肌は白く、目は大きくて、パッチリ二重。男に生まれたことが間違いのような男。
「何、琴田(ことだ)」
性格はその容姿に恵まれてしまったためか、甘やかされて育った一級の我儘。
紅顔の美少年という言葉があるが、これでは厚顔だと、誰かが言っていた。間違いない。
「ありえねぇわ。稀代の天才とかいうから見に来たのに」
「そう?俺はなかなか面白いと思ったよ」
「じゃあ、いってこいよ。俺はご遠慮して、飯食っとくわ」
断っておくが、決して付き合いの悪いほうではないと思う。
しかし、俺は宮代野と同じくらい、またはそれ以上に我儘で、我が道をいく。
少し気分屋であるということは、まぁ、否めない。
食堂内にある階段を登って、特別室だとか呼ばれている場所で、呼び鈴を鳴らす。
「Aコース」
日替わりAコースの注文をきくと、呼び鈴でやってきたそいつは、すっと消える。
俺は、それを見るとはなしにそれを見たあと、眼鏡を外して一度まぶたを閉じる。今日も、既に疲れている。
「おつかれだねぇ…」
「勝木(かつき)、気配消してんじゃねぇよ」
「会長、絶対ビックリしないよねぇ」
俺は目を開けて勝木亮(かつきりょう)がいる場所を見る。
気配を殺しても見えているのなら驚くことはない。
この部屋に入ってきたときから見えていたのだから、それは当然だ。
「会長、その目で見るのやめてやめて。チョー怖いから」
「あ?あー…ここは、気が緩む」
特別室は、本当に特別だった。
俺や勝木、宮代野などを含める生徒会や、生徒会と同じように権力があるとされる風紀委員会にとっては防音仕様の静かな場所として。
その生徒会や風紀委員会を崇める連中にとっては、憧れの対象がいる場所として。
そして、何より俺のような厄介な体質を持つ人間にとって。
曰く、見えすぎる目。
これが生まれもってだというのなら、俺は今頃亡き人であったかもしれないのだが、ある日、ある夢を見た。
その日から突然、俺は何もかも見ることができる目を手に入れてしまった。
それまでは、今居るここのような血筋がいいとか言われている金持ちのお坊ちゃま学校に通っていて、同じように会長をしていた。
毎日がつまらなかった。
何でもできるように思っていたし、なんでもできて当たり前のような周りのリアクションも実につまらなかった。
その日手に入れた目によって、俺の世界は激変した。
普通にしてりゃ見えるはずのない世界が、見えるはずのないものが、見えたのだ。
霊魂だの、妖怪だの、化け物だの、モンスターだの。
そういうのが、見えた。
悲惨な死に方をしたやつは、ひどい格好してるし、妖怪だの化け物だのモンスターだのそういうのは見ていて気持ちのいい形をしていないやつらも多くいる。
俺はつまらないとか言っている場合ではなくなった。
俺がその光景に見慣れる前に、人間らしく恐怖して部屋から出れなくなる頃、ある人物が俺を訪ねてきた。
それが、今居る学校の理事長だった。
そして、俺は理事長のお守りに守られつつ…守られるとか性にあわねぇと、今までにないくらいの努力とやらを発揮して、この学校の会長にまで上り詰めた。
この学校は、俺の前にいた学校と根本は同じである。
顔が良くて、高い能力をもったやつが、騒がれ、役員になる。
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