俺の兄弟子は、師匠の攻撃性を受け継ぎ、俺が弟子になる前に師匠から離れてしまったらしい。
らしいというのも、PBCの人間がそう教えてくれたからであって、俺は兄弟子に会ったこともなければ、師匠に兄弟子のことをきいたこともない。
もちろん、兄弟子のことは気になっていたのだが、まわりの人間が教えてくれるので師匠に聞く必要がなかったのだ。
なんでも、兄弟子は非常にクールで男前、師匠のことが結構好き。名前なのか愛称なのかはわからないが、ニセと呼ばれている。
それだけの情報で、兄弟子を探せるわけがなく、俺は師匠に電話をしたのだ。
すると師匠は、俺の尋ねていることは無視して、仕事の進行状況を尋ねてくるものだから、俺も八つ当り気味に報告をした。
結界を歪めてこちらに来ようとしてる化け物がいるらしいのだ、と。
すると師匠はしばらく黙った後、兄弟子の生年月日を教えてくれた。
それで見つけてみろよという、弟子の成長を意地悪く確かめるつもりのようだ。
そして俺は、仕方なく屋上で、占いをしている。
占いといえば宿曜だの占星術だのなわけだが、俺の使う占いは、占星術込みのオリジナルで、失せもの探しとかを曖昧に占うことができる。
飽く迄あいまいに、だ。
俺は星図板と空を見比べながら唸る。
「俺の明日の運勢微妙…」
うっかり自分自身の運勢をみてしまってテンションだださがりである。
読み解いていって雑誌風にいうとこうだ。
捜し物はみつからないし、ちょっとした事件には巻き込まれるししょんぼり。でも出会いはあるかも!
出会いが吉で捜し物が凶とは微妙である。
星の読みときなど解釈しだいだがなんともいえない。
テンションを下げながらも占った兄弟子の居場所も、学校なのにひどくあいまいだ。
高所要注意。
校舎だけでもいくつかあるというのに、寮だってある。
高所なんていくらでもあるし、木の上だって高所といえるだろう。
なんだか師匠をぶん殴りたい気分になった。
弟子の成長がないのが悪いといえば悪いのだが、教えてくれても罰はあたらない。
「こんな夜中に何をしているんだ?」
「……っ!?」
急にどこからともなく声が聞こえ、俺は驚いた。
「あぁ、占星術か…邪魔したな」
「い、いや…?」
声の主を探してキョロキョロしていると、屋上の入り口近くにそいつは立っていた。
いくつも腕に連なる腕輪、殴られたらさぞいたそうな指輪。耳はルーズリーフだし、首から下げてるアクセサリーも三個と多め。
それより目立つのは指と指の間に挟まるタバコだ。
「ええと…こんばん…は?」
その人は俺の言葉に少し笑った後、同じように返してくれた。
「こんばんは。一応、もう締め切られてるはずなんだが、この屋上」
「あ、いや…星視るのにちょうどよくてですね…」
明らかに俺より年上に見えるその人は、空を見上げ、俺の持った星図を見た。
「出会いは吉だな」
今、俺は兄弟子の生年月日にあわせているはずだ。
ならば、兄弟子の運勢も出会いが吉なんだろう。
それは幸先がよさそうだ。
「…あんたは、少し、鈍感なようだな」
「え、何がですか?」
「邪気とか瘴気に」
「あ、はい」
師匠にも散々いわれたから、よく自覚している。
羨ましいと嫌味までいわれた。
その手のものに敏感だと、吐き気を催したりと大変らしい。
師匠は平気な顔をしているが、PBCの人にはそんな人も多く、つらいんだよと教えてくれた。
師匠はたぶん、カンに障るとかそんなものなんだろうと俺は推測している。
「そうかどおりで」
「?」
「いや、気にするな。……いいことを教えようか」
「なんですか?」
その人はタバコを一度ふかして空を見上げた。
「捜し物をするなら少し待つといい。焦らなくても見つかる」
その人はそういいながら屋上から校舎の中へと入っていった。
「………あれ?あの人なんで屋上来たんだ?」
ちょっと謎である。