兄弟子発見で気分は上々でありながら、鼻の頭は擦り剥いて情けない体を曝け出してる俺は師匠に電話をした。
「師匠、ちゃんと見つけましたよ!ニセさん!」
『ほー…おまえにしちゃよくやったよ』
師匠、一言目にして一言多い。
早くも電話を切りたい気分になりながら、俺はなんとか電話を続ける。
「で、今夜あたりちょいちょいっと退治することになりまして」
『行動が早いのは…ニセか』
俺の行動は遅いというのですか、師匠。いや、早いけどな、思い立ったが吉日だから。
しかし、師匠の考えていることはあたっている。今夜退治してしまおうといったのはニセさんだ。
『あれもせぐな…場所は特定できているのか?』
「あ、なんか、万能めな召使いがいるとかで」
『ほー…アレもむくわれねぇなぁ…』
電話口で笑っている師匠には、召使いがなんなのかわかっているのだろう。
「そんなわけで、師匠、今回くるとかいってましたけど、たぶん間に合いませんよ」
化け物がどの程度のものなのか解らないが、今晩遭遇となると倒すにせよ、倒されるにせよ、師匠は間に合わないはずだ。
『は?おまえからニセの話がきた時点で学園にはむかっているぞ』
「……え、もしかして学園すか、いま」
電話口から誰か、師匠以外の笑い声が聞こえた。
この学園で理事長以外の友人がいるというのなら可能性は一つではないが、おそらく、その笑い声は理事長だ。
『俺は逃さねぇからな。…さて、ニセには召使い経由で知らせておくが、おまえには直接教えておく』
「はぁ」
『その小物な化け物は、俺が場所を特定してやる』
先程から偉そうな言葉が耳に聞こえてくるが、師匠が偉そうなのは通常であるため、気にしてはいない。
たまにムカッとくるけれど。
『そうだな…グラウンドにでもいてくれりゃいい。中心に落としてやるよ』
たぶん、師匠がそこまで追い込んでくれるんだろう。そこまでするのなら、師匠が退治してくれればいい。だが、それを言うと師匠は修行の一貫だといって、俺の意見はなかったことにするだろう。
「わーちょーしんせつー」
わかっていても文句をいいたい気分にはなる。
『いい態度だな?とりあえずただ働きさせるか』
師匠は扶養から外れるほど働かせた挙げ句、給与をあたえないとか、幼気な高校生に酷なことをいうものだ。
「師匠ありがとうございます!目から塩水がでます」
『きたねぇ』
人の涙を汚いとか本当に師匠は酷い。俺が鼻水べったべたにして泣く顔思い出しただけだろうけど。確かにアレは汚い。泣いてるこっちとしては必死なんだが。
『あぁ、鼻水は置いておいて…お前、屋上に不法侵入したんだって?』
案の定鼻水顔を思い出していた師匠が尋ねるのに、電話ごしでありながら俺は頷く。
「この時期であの時間はあそこが一番、占うのに適してて…」
『……、だからといって鍵は破壊するな。これは引きだからな?』
俺が行った屋上は、偉く立派な鍵が付けられていた。
夜中に生徒が忍び込んで怪しい儀式でもしたのだろうかと疑うほどだった。
鍵の弁償は、給料からの引きらしい。経費では落ちないのか、悲しい。
『あと、そこで誰かと会わなかったか?』
「あ、すんごいジャラジャラの人と会いました」
師匠がひとしきり電話口で笑った。
『おまえの日本語フリーダムだな…ッ』
なお笑う師匠。
楽しそうで何よりである。
『は…ッ、わかった、ジャラジャラの人な…』
あまりに笑うんで電話を切ってやろうかと思ったのだが、師匠は笑いながらも、きちんと会話をしめくくった。
『とにかく、グラウンドな』
あまりきちんとではなかったかもしれない。
「りょーかい」
俺は頷いて、あいさつもそこそこに電話を切った。