俺が天才に接触したがるのにはワケがある。
勝木に言ったとおり、化け物がほしいからだ。
天才と呼ばれる人間が化け物、というわけではない。
誰が見ても化け物といい、誰が見ても嫌悪感をあらわすだろう化け物を呼び出してほしいから、天才に接触するのだ。
だが、今のところお眼鏡に適った天才はいない。
うちの式いわく、どいつもそれを呼び出すに値しないらしい。
「面倒だよ。呼び出す条件も面倒なら、実力も必要。しかも、呼び出した人間が相当強くなきゃ、呼び出しただけで瀕死だよ?…あの転校生は理想的だったんだけど。まわりがうるさいよね。彼は何も悪いことしちゃあいないのにねぇ。残念」
よく喋るのが難点だが、これがいなければ俺はその化け物がほしいとも思わなかったのだから、感謝してもいい。
「そうだろうな、誰が危険にさらさせるものか、だろう」
呼び出すだけで死に掛けるかもしれないのに、だ。
俺もそれなりに人らしい感情を持っている。そいつが死ぬとあっては利用することはできない。俺の感情が邪魔をする。
いつか、人を遣い捨てるくらいの人間になったなら、やってしまうだろう。だが、今は、人を遣い捨てるということを考えはしても実行に移すほど、人というものを物としてみることはできない。
だから俺は、天才を探す。
強い力をもっていて、それを使いこなすことができ、化け物を呼び出すことができる条件をそろえた天才を。
「ほんと、シギの力さえ強ければ呼べたのに」
「ねぇもんはねぇんだよ、しかたねぇだろうが」
「そうだよねぇ。なんとか転校生に呼び出してもらうようにするのが今のところは一番なんだよね」
「邪魔がクソ多い」
「あー…いや、でも、転校生と仲良くなればよくない?情が厚そうじゃない、彼」
「…あの転校生、ちやほやとかされたくないタイプだろ。しかも、煩いのは好きじゃねぇと見た。宮代野が近くにいくたび、迷惑そうじゃねぇか」
「ああ、うん。こっそり運命的に出会うしかないかんじだよね」
何を夢見がちな。
そんなことを思いながら、俺は静かな生徒会室でコーヒーを飲んでいた。
今頃、副会長以下四名はバタバタと学園を守ることで必死になっているに違いない。
「まぁ、これが終わったら、その出会いのチャンスなくなりそうだけどね」
最悪最凶などといわれる化け物がこの世にはいるらしい。
それは俺が今いる世界とはちょっと違う世界にいて、人間を食らうらしい。正直人間なんて不味そうなものなんで食ってんだ、悪食だなとは思う。
それでも、そいつにとっては人間は美味しいものであるらしい。特に、力をもった人間はとてつもなくうまいらしい。
もちろん若いののほうがいい。なら、この力を持った者しかいない学園はとてつもないご馳走の宝庫なわけだ。
その上、おいしいことにこの学園には違う世界に繋がる穴を穿ちやすいらしい。
違う世界につながりやすいから、この場所に学園を構えて守っているといってもいい。
だが、その力がある人間が食われてしまったら、守る術なんてなくなってしまう。
それをなんとかするために、封印だとか、結界だとか。この学園の創設者は頑張ったらしい。
そして今、その封印だとか結界だとかが弱くなってしまい、張り直しだとか退治だとか、それを転校生に依頼したようだ。
そして、今は、弱くなってしまった結果、校内に化け物どもがよくやってくるようになってしまった。
だがそれも、つい最近のことではない。
俺がこの学園に通うようになる少し前からそういう状況だ。