辿り着いた騒ぎの中心には転校生が居た。
式をたくさん従えて、俺が現地に向かう必要のない実力を発揮している。
おお、これはすげえと見上げつつ、おこぼれを叩き潰しながら、思う。
足手まといになるんじゃねぇの、俺。
「何…!」
転校生が叫んだ。
俺見て目の色を変える化け物どもが、俺に向かってわーっとくりゃそうなるだろう。
転校生は俺と違って、化け物どもに片っ端から好きになられてるわけではない。この体質は、非常に迷惑だ。
迷惑だが、この体質のおかげで今まで生きてきたのだから、感謝しなければならない。
ある時期よりいい奴らが近寄らなくなったとしてもだ。
「もう!マタタビみたいな体質!」
リツにしてもいい迷惑な体質であるようだ。
リツが腕を振る。それだけで、弱い化け物は吹き飛ばされる。
それなりに強い奴はまだ向かってくるわけだが、リツがさらに手を二回叩き、あわせた手をずらすとパクっと何もない空間に連中が食われる。
元の居場所に転送しただけなのだが、ちょっとしたホラー映像のようだ。
あとに残った根性ある奴を剣で叩く。
叩きのめす。
切り抜くのは意外と技術がいる。刺すのは抜くのにも刺すのにも力を要する。叩くのは、振り下ろすだけ。
俺はその単純さをとった。
それは棒でもよかった。しかし俺は棒より殺傷力がありそうなものを選んだ。それだけ。
「琴田、相変わらず野蛮」
副会長の宮代野がそういって、俺の傍まで走ってくる。
「ましになったほうだ」
切ることもできるようになったんだからと、口には出さないものの、それを実行するように動く。
宮代野は肩を下ろすだけで何もいわなかった。
そのかわりになにかの呪文を唱えていた。
転校生が大ボスといっていいほどの化け物と対峙している間、他は任せてよと宮代野はいったということを俺はあとから知った。
頼りない生徒会で申し訳ないとかも言ってしまったらしい。
そりゃそうだろうよ、生徒会長は化け物に好かれるから登場が遅いし、外注しなけりゃ間にあわねぇ程度の実力しかないときちゃな。
式は結構上等なの捕まえたつもりなんだがな。
そんなわけで、ことを収めた転校生には礼を言っておかねばならないし、これからも協力していく姿勢というやつをみせねばならない。
「…初めまして、会長の琴田信貴(ことだしぎ)です。今回は学園の招致に応じていただき、応戦、ありがとうございます」
一応敬語ってやつは使える。
隣にいる宮代野が微妙な顔をしているが、理事長が貴賓だというのなら、そういう扱いをしなければいけない。それに、恩人だ。ならば、それなりの態度に出るのは普通だ。
「今は、長々と挨拶するのも、今後のことを話すこともできませんから、とりあえず、保健室に行きましょう」
どう見ても、途中参戦で健康そのものの俺よりもボロボロな転校生の手当てもせずに続ける話ではなかった。
保健室に連れて行って、転校生の怪我の手当てを保険医に任せ、俺は保健室の長椅子でそれが終わるのを待つ。
手当てをしながらでもできることなのだが、そういうことはちょっと落ち着いてから話したほうがいい。
「琴田会長」
けれど、転校生の方が俺に興味があったようだ。
「なんですか」
「…あなたは、好かれる体質、なのですか?」
俺が答える前に、うちのおしゃべり好きな式がペラペラとしゃべってくれた。
「そー。シギは俺たちみたいなのに好かれるよ。しかも、よく見える目をもっているから、さらに好かれて大変。使われる俺もすごく大変。こんな繋がりやすいとこきちゃってさー俺、すっごい面倒くさいんだよね」
「一言も二言も多い」
とりあえず、リツの脛を蹴ってから転校生に向き直る。
「生まれつき、好かれる体質だったようです」
「…他の生徒会の方々が言ってたんですが…ある程度事態が収束しないと出てこないっていうのも?」
「ええ、そうでもないと、結構な数が出てきてしまうので」
それはもう、わんさかと一度繋がった場所から俺を求めて、化物どもはやってくる。モテモテだ。嬉しくない。
だから、ここにはいない方がいい。
けれど、それは俺の都合でできない。
「…できれば、あなたには…出てきてほしくないのですが」
そうだろう。俺にとってもいいことはないし、閉じかけた繋がりから無理矢理はいでてこちらに来る奴もいる。
俺がいるというだけで、戦局は偏ってしまう。
「俺としてもできるだけ、そういう場所には近づきたくないのですが。俺にも、この学園に通っている理由がそれなりにありますので…」
「では、戦闘になった場合、結界内からでないように」
「それも致しかねます。責務や正義感からのはなしではなく、俺自身の問題で」
「…何故?」
俺は笑う。
それを転校生が叶えてくれるというのなら、俺は、そんな危ないことをしなくてもよくなる。
「俺はどうしても、力がほしいので」
繋がりやすい場所は、力を高めるのにいい場所でもある。
俺の弱い力は、弱いなりに、少しずつ力を増している。
そして、その繋がりやすい場所であるのなら、比較的に俺のほしいものは呼び出しやすい。
「…あっても、いいものじゃありませんよ」
「そうでしょうね」
それで、不幸な思いをした転校生なら、そうなのだろう。
俺は転校生の不幸を知っている。
「けれど、それ以上に求めるものがあるのなら、話は別だと思いませんか?…まぁ、あなたが、俺の代わりに事を成してくれるというのならこれもまた、別の話なのですが」
俺の目を見ながら、転校生は一度頷く。
「…お話次第なら、できるかもしれません。さすがに、会長の体質は仕事に差し障る」
「おや、やったね。仲良くならずともやってくれるかもよ」
足をさすりながらそんなことをいうから、間抜けにしか見えない。
リツは、やはり俺が説明するまえに、俺の用件を転校生に告げる。
「呼び出してほしいんだよ、ある不運な化物を」