身体質疑応答


人間は逃げるとき無意識に左へ曲がるそうだ。
だから、こうして俺が曲がり角で息を潜め待っていてもおかしくない。
走っていた。
必死なアイツは、廊下を走ってはいけませんだなんて今更聞く気もねぇだろう。
もちろん、俺もいうつもりもない。
そして、俺から逃げるな、とも言わない。
正直、男に迫られたら怖かろうし、まして俺からおわれたら尚更。その気がないなら当たり前のように逃げるだろう。
俺はカウントする。
三、二、一…
零を数えるや否や、右足を軸に左足を持ち上げ反転。
俺に気付いたアイツは条件反射で腕をあげ、俺の左足をガード。
俺はそれをものともせず、アイツを薙ぎ倒す。
受け身をとりそこね呻くアイツの腹上をまたいで座り込むと、俺は笑う。
「で?まだ逃げやがるか?」
体の痛みと俺の重みに、何かいうこともできず呻いたアイツは、眉間にしわを集めた。
「ナァ…諦めようぜぇ?俺だってお前を犯そうってんじゃねぇし、お初ってわけでもねぇし」
「じゃなくても、なんか減るわ精神的なものが!すり減るわ!」
ようやく元気になってきたらしい。俺はアイツのシャツのボタンを飛ばす。
「あー…やっぱ、いいねぇ。いい体。たつ」
「お手軽っつかたたせるな、座り直すな…つか触るな!何処触ってんだ、てめぇ」
「それに用があるんで」
「俺にはねぇよ」
うるせぇから噛み付くようにキスしたら、逆に噛み付かれた。口の中が鉄臭い。
「かわいくねぇ」
「かわいくてどうするよ」
しばらく俺が不満そうに見つめると、アイツはため息を吐く。
「わかった…わかったから。昨日も、一昨日も、その前も。若さ弾けすぎだろっつうくらい時間も関係なく場所は一応選んでるらしいが、かなり一応で、襲って迫って…俺が死にそうなんだが」
「下半身の噂が耐えなかった人間の言う台詞じゃねぇなぁ…」
「てめぇのはいきすぎた。今じゃ走っても追い付かねぇし不意打ちじゃねぇとこうはならないくらい体使い込んでるくせに」
俺の動きがとまっているのをいいことに、アイツは中途半端に這い出すと、上半身を起き上げる。
「俺はそこまでしなくても浮気しねぇし」
「どうだか」
鼻で笑う俺は、怖くて仕方ない。
アイツが浮気性というわけじゃない。
俺に不満ができたり、俺じゃ足りなくなったら、離れていくんじゃないかとか。
「墨田(すみた)だけだから、安心しな」
それとも、たてないくらいいたさないとならないのかとアイツ。
「はっ、やれるもんならな?」
今でさえアイツが逃げるくらいの頻度で迫って襲って、嫌がられてるというのに。
「…たく、おまえもちょっとは可愛げ見せろよ」
「いらねぇよ、んなもん」
そんなもので、アイツが俺に留まるわけがない。
それくらいでアイツが永遠に俺のもんになるなら可愛げの一つや二つ身につけてやろうじゃねぇの。
「で?やるのやらねぇの」
ケツをすりつける。
俺にあんなことを言ってもたつものはたつ。
「しんでぇからやだ」
「きもちーからしたい」
不安は不安。
しかし方法など体以外にもある。
それでも体を使うのは、まぁ、そういう理由。
「無理…マジ無理…ッ」
「たってんだからいけるだろうが無理じゃねぇし」

next/ 色々top