君を愛するには少し足りない

告白は突然だった。
「好きだ!」
保健室のベッドの上、身体をまたがれ、胸ぐらを掴まれ、俺はしばらくの間、なんと言われたか考えた。
「…は」
「好きだから、付き合え」
「何…」
寝起きだったというのも良くなかったが、学園で一番人気の抱かれたい男に襲われているのだろうということに、理解が及ばなかった。
「あんたさぁ…」
「俺が」
一言もまともに俺の言葉を聞いてくれない色男は、学園の生徒会会長東加冬青(はるかとうせい)。絶大な生徒の人気により、あまり俺のようなやつには縁のないような生活を送っている男だった。
「好きだって言ってんだから」
眉間に寄ったシワは、遠くから見てもわかるくらいのいつもより険しく、俺の胸ぐらを掴む手はわずかに震えている。
「素直に頷けばいいんだよ…!」
声はしっかりとしたものであったが、平素はそんな速さでは話さないだろう。
「いや、無理だろ」
いくら本人の様子から緊張が読み取れても、俺には俺の意志と言い分がある。
「だいたい、角谷(すみたに)との噂はどうしたんだよ、会長さんよ」
「…ッ」
眉間の谷が深くなる様子を見て、俺は片手で会長の頬を無理矢理上げる。
当て馬だろうが、適当に選ばれた人間であろうが、俺はそれなりに会長が気に入っていた。
それ故、思うこともある。
「あんた、もうちょっと素直になればいいんじゃねぇの?」
遠くから見てもいつも不機嫌そうで、偉そうで、俺様然とした物言いをする生徒会長は、思い切りもよければ、いい男と評されるにふさわしい行いをする。
見ていて気持ちのいい男なのだ。
たとえ、無駄に世間に反抗しているヤンキーでも一目置いているなんて言われるくらいには、そう、いいやつだ。
「当て馬にするくらいなら、素直に行けよ。大事にしてんの、何か知らねぇけどさぁ…」
頬を引っ張っていた手を離し、少し赤くなった頬を撫でたあと、ニヤリと笑う。
「なァ?」
「……」
「それからでも遅くねぇんじゃねぇの?ま、俺はそれでも、うんとは言えねぇけどな」
会長の手を俺の制服から外すと、俺は生徒会長の身体の下から足を抜く。
「次、告白するときは、もうちょっと色っぽく迫ってきな」
保健室のベッドに会長を置き去りにすると、俺は一つあくびをした。
結局、次の告白を聞くことはなかったわけだが。 …身体に聞けよとは、どこで教わってきた言葉だと問い詰めたい近頃である。