会長様、罷り通る!


 疲れていた。
 山のように机に積まれた紙の束も、メールで届くデータも、USBメモリも、SDカードも、見飽きたし、見たくない。
 俺は立ち上がり、生徒会室からベランダに出る。
 足取り重く、しばらく歩いた。
 いつになったら、生徒会の仕事は終わるのだろう。そんな暗い考えが頭の隅にとどまっているせいで、頭が痛い。
 重たい頭をゆっくりふって、ベランダから、窓を開ける。
「おい風紀ィイィイィィ!」
 勢いがよすぎたらしく、繊細な窓が割れた。破片が飛んできたが、そんなことは些細な事だ。
 背後の窓が、とんでもない破壊音を響かせながら開いたせいだろう。俺の横柄な呼びかけに文句を言うことも出来ず、風紀委員長の設楽(しだら)は、振り返って目を見開いた。
「一発ヤらせてやっから、今すぐ俺の封印ときやがれ!」
 俺の疲れは最早ピークだ。ドーピングでもしなければやっていられない。疲れは肉体にも精神にも現れ、無用な怒りや苛立ちから、窓を割るだけではなく、サッシにまで被害を与えた。歪み、力を逃しきれなかったアルミサッシは、すっかり窓枠の形をしていない。
「……ヤる?」
 目を見開いたまま、首を捻った設楽にあわせ、俺は頷く。
「そうだ。ベッドの上でもソファの上でも、外でも生徒会室でも、いや、なんなら、今ここで足開いてやっても構わない」
 ドーピングをするためなら、何も厭わなかった。
 此処に、風紀委員会室に設楽以外の風紀委員が数人いたところで、構いはしない。
「ちょっと落ち着け、待て、てめぇなに」
「御託はいい。ヤるか、ヤらざるかだ」
「何も言えてねぇよ」
 一分一秒も惜しかった。
 俺は、窓から風紀委員室に入ると、設楽のネクタイをひっぱる。
「それとも何か。浮名を流した風紀委員長様ってのは伊達で、俺とヤる自信がねぇってか?」
「だから、てめぇちょっと」  設楽がこれ以上何か言う前に口を塞ぐ。
 設楽の口のなかは、少しの酸味と苦味、香ばしい風味が広がっていた。
 いい豆使ってんじゃねぇかと、どうでもいいことを考えながら、執拗に咥内を蹂躙する。
 俺がやりたい放題やった後、未だ状況について行けず、混乱している設楽を担ぐ。
 俵担ぎだ。
「こいつは貰っていくぜ」
 呆然としたままの風紀委員たちをよそに、俺は悠々と風紀委員室のドアから出て行く。
 俺が生徒会室につく頃に、風紀委員室のある方角から、火が出たような騒ぎが聞こえたが、もう遅い。
俺は設楽をソファに転がすと手を合わせた。
「いただきます」
「だか、ちょ、てめ……っ!」
 最後には俺が鳴くほどヤったのだから、文句はないだろう。
 そのあと設楽は虫でも噛んだような顔をして、俺の封印を解いてくれた。
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