my little star

「ご聡明な先輩ならおわかりのことかと思われますが、俺のような矮小で小賢しいだけの人間には、少々、荷が勝ちすぎます」
言葉を曲解せずに捉えれば、異常に謙遜しているだけのように思える。
ただ、飯塚奥菜(いいづかおきな)の性格を考えれば、それは額面通りに捉えてはならない言葉だった。
それらしくその言葉を読解するとこうだ。
ずる賢いだけが取り柄の、しようもない先輩に付き合ってやる義理など一寸ほどもない。
なるほど、嫌われている。
苦笑を押し殺すように、眉間に皺を寄せる。
ことさら不愉快そうな顔をして、鼻で笑う。
「俺がやれといえばやればいいんだよ。何?それとも、この程度のことができねぇの?飯塚、役に立たねぇな」
申し付けたことは、確かに『この程度』のことで、それができなければ飯塚は役に立たないと言えた。
「何度も言わせていただきますが、先輩はご自分を過小評価しすぎなのでは?先輩のような天上の方は下民を慮るお暇さえないとは思いますが、俺のような小市民で一般的な人間には」
飯塚の言葉をきき終わる前に、飯塚の胸ぐらを掴むと引き寄せる。
よく回る口を塞いだあと、思う様蹂躙して、離す。
少し息をあげてあっけにとられた飯塚に、眉間に皺を寄せたまま、一言告げる。
「やれ」
「……冗談じゃねぇ」
呟き、唇の感触を消したいのか手の甲で唇を拭う飯塚をもう一度鼻で笑ったあと、わざとらしく唇を舐める。
「面の皮がハゲたな」
「……」
飯塚は不快げに俺に睨み、一度大きく息を吐いた。
気を取り直すように、俺にいつもどおりの温度のない目を向けると、ゆっくりその顔に笑顔を貼り付ける。
「何のことかわかりかねます。俺には難しすぎるみたいなので、先輩のようななんでもできる方にお頼みください。それとも、先輩がしますか?先輩にとっては『この程度』というようなことなのですから、きっと、すぐ終わりますよ」
だから、自分に関わってないでさっさとどこかにいって用事くらいすませろよ。そう言わんばかりだ。
「せっかくご褒美先取りさせてやったのになァ?」
「先輩のことです。この程度のことがご褒美だなんて少しもお思いになっていないのでしょう?」
ああ言えばこう言う。
楽しくて仕方ないというように、笑みを浮かべて、飯塚に再び手を伸ばす。
「じゃあ、セックスでもするか?ああ、でも、それじゃあご褒美にはならねぇか。俺が愉しいだけだもんなァ?」
飯塚は頬を撫でた俺の手を振り払いもしないで一言呟いた。
「拷問か」
本当、嫌われてる。
俺は、飯塚に背を向けて歩き出しながら、苦笑した。