風紀委員会室のドアがいい音を鳴らした。
いつか壊れるんじゃないだろうかと思いながら、俺は湯呑にほうじ茶をいれる。九月とはいえ、まだ暑いのに、風紀委員会室には冷たいお茶が一つもなかった。
湯呑の数は二つ。
風紀委員長と風紀副委員長のためにいれたほうじ茶だった。
しかし、この騒音が聞こえたということは、このほうじ茶は訪問客に一つ渡すべきである。
あとひとつは風紀委員会の序列に従って風紀委員長に渡そうと思ったのだが、騒音が聞こえた瞬間に、風紀委員長が椅子から立ち上がったので、不要だろうと勝手に判断した。
仕方がないので、自分でのもう。
そして、俺はもう一つ湯呑を持ってきて、ほうじ茶を入れ替える。
「書類持ってきてやったぞ」
「えらっそうに…」
風紀委員長が心底嫌そうな顔をする。
俺は湯呑をお盆にのせ、少し考える。
お菓子は必要だろうか。
棚を開ける前に、ソファーに座って偉そうにしているお客様をチラリと見る。
目が合った。少し嬉しそうな顔をしたので、今日も幸せそうでなによりだと、一つ頷き、顔を棚に戻した。
やはりお菓子はいるのではないだろうか。
棚を開けてみると、チョコレートしかなかった。ほうじ茶しかないのに、チョコレートばかりしかない。しかも個装されたチョコレートしかない。
ほうじ茶なのに、チョコレートか。
なくはないな。そう思って、小鉢にチョコレートをざっくりひとつかみ入れる。
「てめぇの仕事がずさんだからそうなんだよ」
風紀委員長にしっかりダメだしをしているお客様の声を聞きながら、それはわざとですよ、ほかの委員会からはいつも感心されるくらいですと思いつつも、口にはださない。くわばらくわばら、触らぬ神に祟りなしである。
風紀委員長が思い切り舌打ちをしたが、そんなもの程度で態度が和らぐお客様じゃない。
「書類も満足にできねぇとか、風紀もおちたもんだな」
お盆の上にすべてそろえ、振り返ると、偉そうな態度で今すぐ頬をつねってやりたくなるような表情をしているお客様と目が合う。
「お疲れ様です」
笑ってみると、お客様がふにゃっと笑った。可愛らしい。
「まじ、里谷(さとや)にだけ愛想いいな…」
呟いた風紀委員長は、副委員長に殴られた。あの緑色のスリッパは来客用ではなかっただろうか。
俺はお客様の前にほうじ茶を入れ替えた湯呑を差し出す。
お客様は猫舌なのだ。
「会長もお忙しいでしょうし、チョコレートはお土産としてお持ち帰りしても大丈夫ですよ。生徒会の皆さんと食べてください」
「…てめぇは俺を追い出したいのか?」
「いえ、できることなら、一緒にお茶を飲みたいですけど」
しっかりお盆の上には湯呑を二つ並べてきたのだから、そのつもりではあった。
だが、どうも、風紀委員室が先程からそわそわしているのが気にかかる。
「なら、飲めばいいじゃねぇか」
「そうですねぇ」
ずずっと茶をすすって一息。
「チョコレートも生徒会の連中にやらずに、一緒に食っちまおうぜ」
「それもいいかもしれませんねぇ」
自分で提案したものの、お客様以外…会長以外の他の生徒会の連中に、会長がチョコレートをあげる姿が思い浮かばない。