キスは嫌いじゃない。
据え膳食わねば男の恥。といって、それなりに乱れた性生活を送っているあたり、幼馴染とは類友。
幼馴染をたきつける行為にしても、キスくらいなら物の数に入らないと思っての行為だ。
やったのも煽ったのも、幼馴染の性格を考慮できなかったのも。それでああなったことも、仕方ないことだ。
だから、一匹狼と呼ばれる遠田が俺にキスをした後、ふと苦笑して、そんなことをやってるから、狙われるんすよ。などといって、俺の口端を拭ったのには、少しときめいた。
えらく可愛いことをするし、思うのだな。と思ったからだ。
それからというもの、遠田は俺を守るという位置についた。
相変わらず接触は最小限。一匹狼の名を欲しいがままにしている遠田を俺は興味本位で観察する。
遠田は、単独で行動することが多く、よく一人で居るが、それを好んでいる節がある。
たまに幼馴染といるときもあるが、だいたいは単独で行動。たまに告白されたりもしている。
一匹狼などと呼ばれるわりに、人当たりはよく、優しいといってもいい。
穏やかな気性であるし、大らか。一人でいるのが好きなだけで、本当の意味で群れないわけではない。
俺へのケアも万全で、たまに疲れている俺を見かけてはお疲れさんなどという。ただのいい奴だ。
普通のやつなのに、どうして幼馴染といるのか、気になって、幼馴染にきくと、奴はこういった。
「アレは、普通じゃないって。アレの本性知ると、陽なんてイチコロなんじゃねぇの。ちょーいい男よ?」
意味が解らない。
今の状態をみてもいい男と言える類ではないのだろうか。
そう思っていたのは、二度目の危機的状況を迎えるときまで。
二度目の危機的状況は、妖しげなハンカチで意識が朦朧としているところから始まる。
あー俺も脱処女か。と何となくおもっていたら、遠田がやってきて、俺を助けた。
「なんでそう、警戒心が薄いんすかねぇ、会長はねぇ。ほんと、一度痛い目見ればいいんですよ」
コレが痛い目じゃないのか?なんて皮肉げに笑ってやると、遠田も笑った。
「やられねぇって安心してるからそうなるんすよ。それともやられても仕方ねぇって思ってます?…じゃあ、やられたくないって思えるようにしてやりますよ」
その、やられたくないと思えるようにする方法が、俺を脱処女させる方向ではなかったのだが…。
今ではすっかり、そんなことを思わなくなったため、大成功といえた。
だが、俺は遠田に言いたい。
それは効果的ではあるが、俺のためを思うなら他の方法が良かったのではなかったのかと思う。
幼馴染のいうとおり、俺は遠田に惚れてしまったからだ。