鼠は猫に軽く噛み付く。


朝起きたら、エーが離れて寝ていた。
それはいい。よくあることだ。
近寄って二度寝して、もう一度起きたら、やっぱり離れていた。
それもいい。よくあることだ。
さらにもう一度近寄って、思う。
俺がちかよらねぇとこいつ、離れる一方なんじゃねぇの?
思った瞬間に俺は眉間に皺を寄せた。
ねぇわ。
たとえエーが離れていっても、俺が近寄るし、はなさねぇから。
と抱きついて、次に目が覚めたときに、さらに思ったのだ。
エーは俺のことを好きだと言ってくれた。なのに、なんで離れていくんだ、おかしくないか?
そして、俺は不機嫌になる。
そのあと、エーの腹を踏みつけて、エーに飯つくらせた挙句文句をいい、エーを苦笑させ。
エーを、エーを、エーを。
俺は何かといってはエーを困らせているのに、エーは怒らない。
良くて苦笑くらいだ。
埋まらない距離のようで、俺は、また思う。
つまらない。
非常につまらない。
許容範囲が広いだけなのかもしれない。器が大きいだけなのかもしれない。
けれど俺は我儘で、エーの距離感が気に入らず、エーが怒ればいいのにとか、エーが俺を離さずにおいてくれればいいのにだとか、乙女真っ青なことをたまに思う。
喧嘩をしないのは、喧嘩をするほど距離が近くないから。
エーが俺を離すのは、エーが俺に対して遠慮があるから。
エーは、俺を尊敬してやまない。何をそんなに尊敬しているのかは知らないが、それが俺とエーに距離を生む。
その距離は、嫌いではない。
嫌いではないのだ。
けれど、たまに、こうして、嫌だと思う。
俺は我儘なのだ。構って欲しいときとそうでないときがあって、今は、そう、構って欲しい。
俺は昔もこんなに気まぐれだったか。
そうだ。気まぐれだった。
けれど、こんなにも起伏が激しかったか。
いや、淡々と。
ほんとうに淡々と、つまらない凪いだ感じで…ここまでではなかった。
今は、つまらないから凪いでいることはない。…つまらないと感じると、急に気分が下降する。
なぁ、エー。
たぶんこれは、オダじゃ直せねぇよ。だって、原因はお前だ。
意味のねぇ、ただの周期的に悪くなる機嫌じゃなくて。
原因はお前なんだ。
機嫌くらいとれよ。風紀委員長と話なんかしてないで。
エーはいう。俺が不機嫌であることも好きだとエーはいう。
そうか。
俺は少し気分がよくなる。エーはやっぱりいい。
最近の俺の気分の変化はエーが握ってるんじゃねぇかなっておもうことがある。
そんなこと思っている間も、風紀委員長と話すエー。
また、俺の気分は下降する。
だから、はなしてんじゃねぇよ。
俺はキスをしたあと、いつも通りエーに絡みつきべったりしつつ、ちょっかいをだす。
ああ、好きだ。エーのことが全力で好きだ。
「機嫌とれ」
「俺がですか」
「とれ」
急にいって、エーが困った顔をしたあと、唇、頬、耳とキスをして、俺を抱き締める。
最後にエーはこういった。
「難しいから嫌です」
断固拒否だな。
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