兎は狐の毛並みを知っている。


蛍光灯の下、赤い光が顔に映ってせわしなく移動する。
青白く見える肌に、赤い光が少し、病的に見える。
先輩は赤というより、もっと強そうな、明るくて…オレンジ?
それも違う気がして、先輩が帰った後、部屋の片隅においてある色の本を取り出す。
興味本位で買った本。色の名前がいろいろありすぎるのが、少し面白い。
明るいから、という理由だけで黄色と赤の間の色を眺める。
黄色が強くなるにつれ、何かちがうなぁと、思う。
眉間に皺を寄せて考えすぎなくらい考えて、やめた。
先輩は単色というより、多色な人で、それが煩いくらいの人だと思ったからだ。
色が喧嘩してる。そのくせ、ふと、思い出す色がある人だ。
ああ、その思い出す色が先輩か。
と、甘い甘いとまるで甘味扱いな先輩の顔を思い出す。
思えば、あの甘い顔に皆騙されている。
先輩は優しい人ではない。
甘い顔が笑えば、それはそれは優しそうに見えるけれど。
むしろ冷たいくらいの人だ。
俺にはすぐ笑うわ、泣くわ、拗ねるわで、せわしない人だけれど。
他の人には当たり障りない態度で、一定の表情と感情を保っているような気がする。
そう思えば、怒るということをあまりしない人だ。
それは優しいから、ではなく。
怒るほどの深入りをしないからだ。
では、俺との付き合いもまだまだ浅い、ということだろうか。
ちょっとどころか、随分、それが悔しい。
身体の方が先行してしまって、責任をとらなきゃ?なんて始まった関係ではあるのだけれど、それはそれで、俺は先輩がそれなりに好きになっていて。
先輩がいなくなると寂しいなと、思うくらいには。
先輩が忙しなくて騒がしいというのもあるけれど。
やたら引っ付きたがるあの体温が、あったかいとか、いなくなると寒いとか。
そういうの、積み重なると、先輩がいないことは寂しいなと思ってしまう。
不意に思い当たる。
ああ、そっか、先輩は、青か。
黒に近い深い青。
寂しい青。静寂の、冷たくも、落ち着いた。光に透けてほの青い。
明るいと思っていたけれど。
沈むような、しみこむような。
先輩は、意外と寂しい。
俺を寂しい気分にさせるという意味でもそうだし、本人が寂しがりなように見えるのもそう。
人に深入りしない分、浅く広く、騒がしいように見えて、撫でるような。肝心要のことは誰も知らない。誰も知れない。
つかみ所がないとかいわれるけれど、それとは本当はまた違った、一人。
そのくせ、一人が結構好きで、寂しくなったら寄ってくる。
可愛い人だなぁとか思ってしまうのは、もう手遅れ。
そうだ。明日は、街にいこう。
それで、ブックマーカーを買うんだ。
先輩が物珍しそうな、懐かしそうな。そんな目でみたブックマーカーを。
「俺もついてくー」
「先輩、予算会議でしょ」
「やだ、ついてくー」
先輩のわがままをなんとかいなしてから。
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