「エーの眼鏡はエロいよナァ」
ヘッドが馬鹿なことをいっている今現在、8月。
成績はギリギリ赤点免れた、スレスレ。と言って、計算しているとしか思えない点数をすべての教科でたたき出すヘッド。
どうでもいいのだが、このままスレスレだと俺と同じクラスというのは無理ではないだろうか。いや、それより俺はこのまま進級していくのか。
学園の学業についてはよく解らないまま、夏休みがやってきた。
「ヘッ……サクラさん」
「まだ、慣れねぇの?」
「エロいかどうかは置いといて、その眼鏡返してくれませんかね」
眼鏡を斜めに掲げたあと、自らに装着してヘッドは笑った。
「似合う?」
「似合いますから、早く返してください」
「てきとー」
ケタケタ声に出して笑い、眼鏡を俺に返してくれたヘッドは暫く手で目を押さえる。どうやら、コンタクトと眼鏡の二つは気持ちの悪い視界を作ってくれたようだ。
「あーくらくらする」
「馬鹿やってるからだ」
憎まれ口をたたいたのは、隣のロッジに泊まっているる生徒会長だった。
エメラルドグリーンの海。
白い砂浜。
木で組まれた海の近くのロッジ。
ホテル所有のプライベートビーチには遠田さん。
「ダシに使ったんだから、俺とエーを羨んでるんじゃねぇーよ。ほら、オダは一人だ、今しかない。押し倒せ」
「そこでお前らに見られながら青姦か?ないな」
俺も人に見せ付けられて興奮するシュミはない。遠田さんはプライベードビーチのパラソルと揺り椅子の下、絶妙のバランスを保ちながら何か本を読んでいる。
ヤンキーと海と本。
夏の風物詩にするには、少しおかしな取り合わせではないだろうか。
そう、俺たちは今、海辺のホテル所有のロッジにいる。
ホテルの管理する一組のみの宿泊施設は綺麗で、景色も最高。
一泊いったい幾らするんだ?という場所だった。
ヘッドと会長は金持ちのオボッチャンだというからいいとして、俺と遠田さんは誰の持ちなんだと戦々恐々したくらいだ。
一泊一万とかいわないだろう。シーズンであるし、都会のシーズンオフのハイクラスホテルでも二万三万するものだ。
こんな海外の知る人ぞ知る日本人経営の宿泊施設、しかもメディア露出なしとか…そんなところが、しがないにもほどがあるヤンキーに払えるものでもなく…。
この前、株当てたから大丈夫。とは会長談。
この前、スクラッチ当てたから大丈夫。とはヘッド談。
何か、どちらがいいとか悪いとか言わないが、おごりという辺りがもう、申し訳ないという遠田さんと、スクラッチ当てたんですかよかったですね。と諦め気味の俺は、まるで連れ去られるようにしてここにきた。
背後から抱きつくヘッドに、なんとか遠田さんを誘った会長。
二人していいじゃん、誘われとけよというスタンス。
やっぱり、ふたりは幼なじみなんだな…と実感した。
それは遠田さんも海辺で本を読むしかない。
ホテルの備品であった本は、あとで確認したら聖書だった。
遠田さんの苦悩を垣間見た気がした。
読み終わったあと、旧約のが面白かった。との感想だったので、新しい扉は開けなかったようだが。
「じゃあ、どうすんだよ?オダもちゃんと誘われたんだゼェ?それなりにその気だろ?あいつ、鋭いぞー?」
バレバレだわ、お前の気持ちなんて。
ヘッドの心の声が聞こえるようである。
「つっても…あいつに今現在その気がないのも、確かだろう?」
「まぁーなぁ…はっきりと態度にみせるとか…あの野郎なかなかやり手だよな」
遠田さんが好き放題言われ、観察されている。
夏休みになる直前。ほんの一日前。
遠田さんと親密な仲になりたいので、協力して欲しい。
ヘッドは会長のお願いをすげなく断ろうとしていた。…自分自身は助けてもらったのに、何故会長のお願いを聞いてあげないのか。それは、ヘッドがそれを借りとも思っていないからだ。
その上俺と自堕落な夏休みを送りたかったんだ…とは本人談だ。
だが、今、滞在しているホテルを紹介するといわれ、一も二もなく頷いた。
紹介制のホテル、なのだそうだ。
恐ろしい。ここまできたら、値段は知らない方が幸せである。
「あーあー…遠田のこと、好きなんだがなー!」
「ばれるもばれないも…そんな堂々と…」
「あーあー俺もエーのこと愛してんだけどー」
「いえ、知ってますから。ていうか、俺も愛してますから」
このクソ暑いのに、べったりひっついてくるヘッドを離さないくらいには愛してます。
上半身裸でくっついてくるから少々困っているのは、最早せいしゅんなのでしょうがない。