猫はマタタビよりもネズミを探す。


1に、喧嘩。2にセックス。3に喧嘩。
そんな毎日。
飽き飽きして、人間関係を傍観、観賞という遊びを覚えた。
時にひっかきまわし、時に冷たく切り捨てる。
生まれ持った容姿も手伝って、いやらしいやら、キチやら、悪い癖やらいわれつつ、気がつけばチームのヘッドになってしばらく。
いつも以上にくだらない喧嘩。
いつも以上につまらない暴力。
ごめんなさい、すみませんって謝るまで、みっともなくもう止めてくださいっていって地を這い蹲るまで、もしくは黙るまで。
それが通常運行。
振りかぶった瞬間、目が合った。
死んだ魚と目があっても、膜の張った目でみられるだけだ。
けれどその日に合った目は、驚いたように見返しただけだった。
存外整った顔。
すらりと高い背。
嫌味なくらい似合うメガネ。
さっきまで殴ってた奴らとは格さえちがって、冷たい印象の。
冷たい目が俺を見て、驚いた。
俺は思わずにやりと笑って、その目は驚きからすぐ覚めて、ゆっくりと細まる。
一度も染めたことなんてねんだろなぁ…という黒い髪と眼鏡を見て優等生かなと判断したいけれど、それを裏切る表情。
ああ、いいな。こいつはいい。
本能みたいなもので、さっさと気に入った。
俺は猫みたいに獲物をいたぶって、さっさと俺のものにしてしまおうなんて思っていた。
…あてが外れた。
まず、あいつは俺にいたぶられたネズミであったはずなのに、逃げもしないのにとらえるのが難しい。
一度は俺にかみついて、でも、俺がしとめたというのに。
「なんで、エーは俺のものになんねぇの」
藤の衣なんていうロマンチックで古典な名前のついたクールな男は、チームの下っ端連中にもってもてだった。いや、ちがう。チーム全体にもってもてだった。
頭はいいし、足は長いし、クールですぐ喧嘩って奴でもない。
人のはなしはちゃんときいて、嫌味いったりするくせに、本当にひとのいやなことは一言もいわない。
できたやつ。
ほら、今も。
下っ端連中と楽しそうに。
気に入ったから、気になるになって、俺のものにしたいになるのは容易だった。
知れば知るほどカッコいいのだ。
俺より強いことはない。
でも、別に弱いわけじゃない。
喧嘩だって俺に回ってこないようにするし、俺をさりげなくガードしたりする。
そんな守るとか正直、ねぇわって思いはするものの、それ以上に、そうやってくれてることが嬉しいと思ってしまうもので。
俺より弱いくせに、俺を守ろうとする意思が心地よい。
それをちゃんと実行できるから。そこがイイ。
別に女みてぇな理由で好きになったって別にいいんじゃねぇのと開き直って、みたら、こうやって嫉妬もすき放題できるというもんで。
下っ端連中けちらして。
俺は腰に抱きついて、最終的にはあいつのふともも拝借して寝転ぶ。
はー下から見ても不細工じゃねぇのってキチョウだわ。



「ヘッドとコム、どうにかなりませんかねー」
「なんねぇだろ、二人とも無自覚すぎる」
「あそこだけ美形度高くて割り込めねぇ」
「あーまたイチャイチャして…」
「でも、最近アレを見ないと一日が終わる気がしねーよ」
「あ、俺も。なんかたりねーつの?平和ーみたいな」
あー…と溜息をついたチームメンバーのことを二人は知らない。
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