夏といったら海か山か。それとも北にいくか。ガンガンにクーラーかかった部屋にひきこもるか。
今年は海だった。
しかも、エーがいる。
海辺のロッジでロマンチックに。というのは俺の趣味ではないが、心行くまで二人っきりというのは惹かれた。
しかし、二人っきりなんてのは作ろうと思えば案外簡単に作れる。
人の気配を自分でシャットアウトしてしまえばいい話なのだから。
では、何故、幼なじみにつきあってこのロマンチック丸出しのホテルにいるのか。
答えは簡単だ。
エーを片手に、幼なじみの恋の行方を鑑賞するためだ。
最初に渋ったのは条件が旅行だけだったからだ。
条件に一組のみのホテルときいた時点で、行こうと思った。
ホテルで一組、しかも、俺とエーと遠田のみを誘った幼なじみは、明らかに遠田狙いと言わんばかりだし、普段の礼というには飛びすぎている。
つまり、面白いことがおこるだろうなと、思ったわけだ。
幼なじみは好きだ好きだと、告白済みなのか夏の開放感からなのか。遠田によくその言葉を告げている。というか、もう、からかう領域だ。
遠田は遠田で、既になれてしまったのか殆どスルーを決め込んでいる。
そうでなくても、遠田はそういう雰囲気にもっていかせないということが得意だ。真剣な告白にはもっていけないようにしているのだろう。
たまに、ハイハイ。と適当に流している姿も見られる。
「ついでに遠田も愛してるカラー!」
「…あんたは黙ってろ!」
おーおー怖いねぇ。
聖書から顔を上げて眉間に皺を寄せたヤンキーがメンチ切ってきた。
俺は肩をわざとらしく下ろして、べったりとくっついているエーを見る。
俺がジーンズに半裸なのとは違い、クソ暑いにも関わらず薄い地の長袖パーカーを着ている。先日の性春あとがちらっと見える胸元がセクシー。
もしかして、それを気にして長袖じゃあるまいな。俺は、エーの独占欲の跡もそのままに、パーカーのチャックを下ろす。
「…なんですか?」
「俺だけ半裸ってのはちょっと、な」
「いえ、海辺のヤンキーも半裸です」
「そこはカウントしてない」
シャットアウトすれば、いつでもエーと二人きりだなんて思うことができる俺にとっては、俺だけ半裸というよりも、エーだけパーカー着てるのも。だ。
俺のもんだってのをみせつけるくらいでいいんだ。みせとけよ、俺の独占欲。
ああ、なんでもっと見えるところにキスマーク付けられなかったんだ。エーが巧みだからか。くそ。今日も挑んでやろう。
「あの二人…ほんと、あの二人…」
「今更仕方ないっすよ。あの二人を誘った会長の自業自得です」
「お?じゃあ、お前と二人っきりでよかったってことか。なるほど、解らなかった。両想いだった」
「庶務とか風紀の連中とか誘えば良かったじゃないすか」
「…ぬか喜ばせたな」
「勝手に喜んだというか、喜んでねぇだろあんた。ほんと、あんたあれだ、アレの幼なじみっすね」