ヘッドにはイライラすると爪を噛む癖があるらしい。ということをつい先日、知った。
爪ががたがたになるくらいなら背中に爪をたてられたら痛いというだけで、あとはなんとも思わないのだが、爪が短くなると甘皮まで噛み始めるのだ。
気が付けば指が血まみれになっていることも多いらしく、鉄の味がするなと思ったら、血が出ている。とか言うので、聞いているこっちが痛くなってくる。
そして、見た目にも非常に痛々しい。
だから俺は今、ヘッドの手をとってマニュキアのトップコートを塗っている。
何故かマニキュアなんてものが風紀委員室にあるのかは、あまり考えないことにしている。
トップコートを泡がたたないように、はみ出ないように真剣に塗っている俺を見てヘッドが呟いた。
「暇」
「いえ、もうちょっと…もうちょっと待ってください」
「やだ」
「ヤダじゃなくて」
爪を噛むのを防止するのにトップコートを塗っている訳だが、本人にやめる気がないのならトップコートもあまり意味がないかもしれない。
ここのところあんまり噛まなかったからなぁと呟いたヘッドの指先は、そう思えば昔から深爪気味だったような気がする。
爪を噛むのを防止するためにスカルプチャーというものをつけたりもするらしいのだが、さすがにそれは男子高校に置いてあるものではない。
「エーは、この前から迫っても押し倒しても俺とヤってくれないし」
「…これが治るまでヤリませんよ」
「…悪化するんじゃねぇーの?」
エーさえいれば格段と噛む機会減るのに。
と、ヘッドは言うけれど、この間の血まみれの親指は最短記録だったようで。
ソファーは何かをこすったあとがのこっているし、今現在も痛々しい親指を見ては眉をしかめてしまう。
「悪化させませんから」
「じゃーヤろう」
「しません」
やっとのことで塗り終えて、一息つく。
ヘッドがトップコートなど気にするはずがないので、ヘッドの両手を後ろからもって軽く振る。
「なんでしてくんないの?」
「まだ怒ってるからですよ」
「……どうしたら機嫌なおすんだよ」
「さぁ?」
ヘッドの肩に顎を載せると、ヘッドが少し身じろぎした。
くすぐったかったのか、な?
「……君タチさー…喧嘩したとか怒ってるとか、嘘でしょ?」
「なんでですか、委員長?」
「だって、その格好…」
風紀委員室のソファーの上、俺の股の間にヘッドがいて、俺がそれを後ろから抱きしめているような形になっている。
肩に顎まで載せて、確かにイチャイチャしているようにしかみえない。
「いいんちょー、エーがヤってくれませーん」
「不純同性交遊は、慎むように生徒手帳にも書いてなかったかい?」
「手帳なんて読む暇あったら、エーに絡む」
「うん、僕が馬鹿だったよ」
俺はヘッドの手をぶらぶらさせながら、委員長も大変だなとなんとなく思った。