猫は鼠を襲う。


エーが綺麗に爪を切って揃えたあと、真剣になってマニキュアを塗ったおかげで俺の爪は光を反射して光っていた。
俺がマニキュアを塗っても気持ち悪いだけなのだが、エーは満足したようで、すっかり整えられて綺麗になった俺の爪を眺めて何度か頷いてた。
「噛まないでくださいね」
そう言われても、イライラしたらいつの間にか口元に爪があるのだから、どうしようもない気もする。
「爪を見たら、思い出してください。噛んで違和感を感じたら、それもまた、思い出してください」
約束ですよ。と念押ししてくるエーは実に可愛いと思う。
しかし、まだ怒っているということで、俺とはヤってくれない。
ヤりたいのに。治るまで待てとかけちくさいことをいう。
寝込みを襲っても、いくらスタンバイさせても、全力の抵抗を受けるというのは、こちらもくるものがある。
俺は爪を眺めながら微妙な顔をするしかない。
早く治る気がしない。
「どうしたらやってくれると思う?なー陽ーようちーん、ようすけー」
「そんなの俺が聞きてぇよ」
恋患ってる幼馴染は、あの手この手を使ってお誘いをしているらしいのだがうまくいかないらしい。
いつもなら、うまくいかないからといってどうにかこうにかしようなんてしないくせに、遠田は別で、難しいからこそ燃える物件だという話だ。
感情の問題でもある気もする。
「あーあーやっと両想いかと思ったらこれだし?マジめんど」
「面倒だとか、あっちが思ってるんじゃないか?」
陽介の言うとおり、思っているだろう。
正直、エーより俺の方が面倒な人間だと思うのだ。
エーは考えて行動するタイプだから。
でも、本能で動いている人間からしたら、そういう奴こそ面倒くさい。
どうしてあんなやつ好きになったのだろうとか思ってしまうくらいには面倒くさい。
そう、こういう相手とするには好みからいうとエーはずれているのだ。
気に入ったからといって、好みにそうかと言うとまたそれは別の話だと実感するばかり。
「面倒だが、好きなんだよなァ…」
困ったことに、その上参ったことに。
「くそ…ノロケか?聞かないぞ」
「ノロケじゃねぇし。よーちんも早く好きになってもらえるとイイネ」
そこからなのか…とつぶやいて肩を落とした幼馴染を慰めもしないで、俺はエーを思う。
あの野郎、そろそろマジで無理にでものるかな。
拘束して、たたせて…うん、いけるだろう。
「既成事実作りに帰る」
「…おーいってらっしゃい」
気のない返事をされた。
その日。
俺はエーが寝ている間に手を拘束し、足も一応拘束して、事をなした。
…エーは呆れていた。
いいじゃねぇか、減るもんじゃなし。
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