付き合って気づくことはたくさんあるもんだ。
ケージは地味でもっさくて、ちょっと走るの早いってだけの男だと思ってた。
先輩には律儀に敬語だし、俺が調べた限りじゃ元陸上部で、やめた理由も知っていたけど。
ケージは元陸上部。短距離走の選手だった。
うちの学園にも短距離走の選手として推薦で入ってきた。
それなのに陸上をやめたのは、足の故障。
詳しい名前とかそういうのはわからないけれど、膝がダメになったという話で。
俺が初めてみた頃にはすっかり陸上をやってた面影とかなかったんだ。
陸上選手特有の細さとか、ああいうの、なかった。
しかも、付き合って一度も陸上の話なんてしなかったし。部活見てるのだって、悔しそうでもなかったし。なんか吹っ切ったのか、それとも切り離してんのか、…好きでなかったのか。
そう勝手に思ってた。
ケージは本も好きだし、陸上に向けた情熱みたいなのはそこにいったのかなとか、思ってた。
それは、陸上部のやつと走ってんの見て初めて違うって気がついた。
「走れんじゃん、また陸上やれよー」
「いや、もう無理ですって、足がたがたになりますから、明日とか」
走ってるとき、途中でがくんとスピードが落ちた。その時一瞬、ケージがひどい顔をした。
見るんじゃなかったなぁ…と思う俺は薄情なんだろうか?
陸上部の輪から離れて、ちょっとおかしな歩き方をしながら、悔しそうな顔をしているケージと目が合った。
「…見ましたか?」
「…見ちゃった」
「そうですか」
一度、大きく息を吐いて吸ったケージを特に慰めもしないで、俺は、考えを改める。
ケージは、走るの好きだし、吹っ切ってもないし、切り離しもできてない。悔しいし、今でも走れるのなら走りたいのかもしれない。
「慰めてくれないんですか?」
「慰めて欲しくないくせに?」
「……もう、諦められたと思ったんですけど、やっぱり」
その先の言葉は、言わなかったけれど。
俺はケージを見ることなく、笑った。
「やりたいことやったんですよ、我慢してたこととか。おかげで急に目も悪くなったし。昔より太ったし。運動なんて全然しないでゴロゴロもしたんです」
「それで、その体型ってなんかずるくない?」
「途中で、罪悪感が襲ってくるんで、なんか中途半端になるんですよ」
「そんなもんか」
「そんなものです」
ケージが苦笑する。
「先輩、感想は?」
「俺、ケージが陸上してたら多分嫉妬してたけど、陸上してても出会う自信あるから、残念だけど、卑屈なケージも好きだし?」
自信については根拠無いけど。
「できたら、卑屈じゃない方が好きだけど」
「明日には治っときます」
「別にゆっくりでもいいよ」
「治りますから」
そう?なんて頷いて、ケージの肩を軽く叩いたあと、俺はケージを一人にした。
あー…せっかくだからしつこく、同室になろうって押しとけばよかったかなぁ、弱いところにつっこんで。