好きだと言ってきてからの会長は、本気なのかそうでないのか。
毎日毎日会っては好きだと言ってくる。
所構わず言ってくる。
会長をこっそり守っていた俺のことを知っていた親衛隊のメンバーたちは、遠田さんなら、悔しいけど、仕方ない。とかいって、ちょっとした姑みたいな嫌がらせをしてくるものの、大きな動きはない。
たとえば、胡椒と書いている不透明な容器の中身が塩コショウで、ラーメンに振り替えて食べてみたら、塩の主張に五目ラーメンが残念なことになったりだとか、ソースとかいているものが醤油だったりだとか。
俺の先回りも大変だろうによくやるなと思いながら、醤油がついたとんかつを喰ったりもした。
塩が砂糖だった時と、粉チーズがパン粉だったときと、タバスコがラー油だったときはさすがに物申したくなったりもしたが、そんな細かい嫌がらせ程度ではうんざりはしても怒る気にもなれない。
そんな細かい嫌がらせを受けながら、俺は日々それなりにのんびり過ごしている。…はずだ。
「エーが怒って口聞いてくれねんだけど」
「それは怒るだろ」
最近増えつつあるウタとコムの痴話喧嘩にため息をつきながら、食堂の片隅、しょっぱい五目ラーメンを食う。
会長とは食べる時間をぶつからないように時間を巧妙にずらしているつもりなのだが、そこは会長の情報力が素晴らしいのか、毎回飯食ってる途中でやってくる。
今日もそろそろやってくるはずだ。
と、思っている間に『会長ー遠田さん、今日は食堂の隅ですー』という情報提供の声が聞こえた。…すでに会長が俺を追い回しているのは名物なのかもしれない。
「よ。今日はこんな端っこでラーメンか」
気軽に声をかけてくる会長を無視して、ラーメンに集中すると、周りからブーイングが起こる。
ほっておいてくれよ。と思いながらも、俺はさっさと麺を片付ける。
ラーメンは伸びる前に食べる硬麺派だ。
「……誰かさんが毎日毎日しつこいからだ」
「…誰かさんも毎日毎日、あきらめもせず微妙に時間ずらしたり食べる場所変えたり、早弁したり、購買でかったり…大変だな」
この前は自分で飯たいて、適当に冷凍食品つっこんだ弁当まで持参したにも関わらず発見されて『弁当食うのか?ていうか、作ったのか?俺にも作ってくれてよくないか?』とか言うので、弁当はやめた。
「ふられてやんの」
「喧嘩して部屋にも入れてもらえねぇやつにいわれたかねぇよ」
「残念、その部屋に自由に入る権利もない陽介にはわかんねぇ悩みだったか」
「…悔しくねぇから」
「悔しいよねー陽ちゃぁあん」
俺は五目ラーメンの具が見当たらなくなったあたりで、お盆と食器を持って立ち上がる。…汁は飲まない。
残念なしょっぱさだから。
「っと、どこいこうとしてるんだ、遠田」
「そうだぜぇ、遠田くんが主役だろ、この席の」
そんな主役はご遠慮したいのがこちらの意見なんだが、こちらの意見を聞くなら最初からウタとも会長とも関わっていない。
コムはよくこんな奴らと付き合って平然とした顔をしていられるなと思いもするが、コムもこの二人に輪をかけたようなマイペースさがあるため、平然としてられるのも当然なのかもしれない。
「俺はできたら、その席の主役とやらを降りたい」
「ダメだろ。ほら、デザートでも注文しろよ」
奢るし。と、タッチパネルを叩く会長が憎らしい。
どうもこの二人相手だと強く出るのが面倒な俺は、おとなしくコーヒー一杯を頼む。
強く出て面倒くさくなった結果、夏にどこかよくわからないけどクソ高い旅行に連れ出されるというなんともこちらが気を揉むことをされてしまったのだが。
「遠田って押せばそのうちどうにかなるんじゃねぇかなって、俺、ちょっと思ってんだけど」
「そのへんの認識、甘めぇから、陽介」
本気で嫌なら、暴力停学、退学くらい平気でするから。と、ウタがぼやいた。
よくお分かりで。