困ったことに、エーが何しても口をきいてくれない。
夜這いをすると怒るというより呆れた癖に、頑固に口はきいてくれない。
部屋にも入れてもらえねぇし、エーってマジ頑固で面倒くさくてケチくさい。
塗られたマニキュアもハゲて、既に何度か噛んだあと。
ちぎったりするくらい噛むまえに、やたら光るマニキュアのせいでエーを思い出して我慢をする。
だが、衝動の一回目は噛み付いてしまうので仕方ない。
そろそろ親指の爪もはえて、もとに戻りつつあるのに。
最近はエーの顔もまともに見ていない。
なんでこんなに近くにいて、こんな我慢をしなければならないのかよくわからない。わからないが、エーがダメだと言って頑固に拒否するのなら俺が我慢するしかないのだ。
エーとの付き合いなんざ、本当に短けぇもんだし、俺なんてエーの何知ってんの?って思いもあって、なんか最近つまらない。
エーのこと、俺より分かってそうな苦労性な一匹狼遠田くんに聞いても、『そうだろうな』くらいの返答で、エーが期限をなおすヒントとかどうすればいいとかそんなことは教えてくれない。なんとなく予感していたが、いざ言われてみると友達がいのないとか自分勝手きわまることを思って、陽介が来て、すぐ立ち去ろうとする遠田を止める。八つ当たりだ。
陽介は陽介で遠田は押せばなんとかなるのかもとか、まだまだ遠田を理解してないようで、知りたいことを知れるのは結構こういう情報をしりたがってる連中じゃないんだなって、気がつく。
一匹狼で、遠田で、オダで、たまにエンとか呼ばれてる、うちのチームの副は、面倒見がいいくせに面倒臭がりだ。
面倒くさいから何か言われる前に面倒を見ていると言ってもいい。
だから親身にはならないし、自分は自分。他人は他人がはっきりしている。
聞き流すのは得意中の得意。
俺が人をいじって遊ぶ趣味があるなら、やつはやつでその後始末を一部だけになって、あとは全部捨てるような真似事をする。
最後まで面倒を見るなんてことはけしてしない男だ。
中途半端といえば中途半端だし、世の中って所詮そんなものだろって線引きがうまいといえば、うまい。
俺は、そのどっちでもいいから、つるんでたのしめればそれでいいわけで。
陽介は何を求めて、何を感じてあの男が好きだというのか。
ちょっと不思議ではあるものの、見ているだけの俺が何か言うのもお門違いというやつだ。
「お前も、幼馴染大切なら止めろよ」
「大切だけど、陽介の望んでんの何かわかんねぇし。陽介も本気で迫ってねぇし」
なんで本気で迫ることができないとか聞く気もない。
俺は幼馴染にも親身になってやれず、ただエーのことだけを考えるので忙しい。
ハゲができてしまったマニュキアを爪でボロボロとはぐ。
今日も部屋にいけないどころか、席がくそ近いにも関わらず、エーは昼飯時、俺の近くにいようとしなかった。