「会長って、急に一匹狼くんだったよねー」
一匹狼くんがコーヒー飲み終わるまで一匹狼くんに好きだの、なんだのと茶化して生徒会専用席にやってきた会長に、俺はニヤニヤした顔をむけてみせた。
会長は、鼻で笑った。
「羨ましいだろ?」
「え、ぜんぜん。何が羨ましいの?俺にはケージいるし?」
ケージは、この前言った通り、いつもどおりに戻ってた。
俺がべったりするのを勝手にさせておき、たまに俺に注意したりからかったり。そんで大抵俺に甘い反応を見せるのだ。
会長が俺の回答に微妙に悔しそうな顔をした。一匹狼くんもさ、これを見ていながら、会長を簡単に無視できるんだからすごい。
大抵の連中はこの会長の素直さというの?それにやられてしまうのに。
「そろそろ会長もさーひいてみるべきじゃない?」
「いや、そんなことすると、これ幸いとフェードアウトするに決まってる、遠田は」
俺は一匹狼くんのことはよく知らない。
けど、会長のことはそれなりに長い付き合いがあるから知っている。
計画的に出来る人だし、計算だって出来る人なのだ。
計画や計算がしたくないのか、それともしないのか。
一匹狼くんにはそんなに迫っていない気がするのだ。
そのくせ離す気は毛頭なくて、常にその手を一匹狼くんに伸ばしている。
「そんなに薄情なの?」
「というより、俺のことはどうでもいいのだろうと思う」
どうでもいいのに、あんなにちゃんと守ってくれるなんて、変な奴。
会長が襲われたとか、そんなのは、みんな知っている。
それを守ったのが誰であるだとか、誰のせいで会長の警戒心が機能するようになったとかそんなことも、みんな知っている。
だから、親衛隊だってちょっとした悪戯みたいな嫌がらせをすることはあっても、会長の邪魔もしないし、一匹狼くんになんらかの手段を講じたりしない。会長の応援さえしている。
「ふーん。興味ないけど」
「そうだろうなぁ」
苦笑に近い笑い方ををして料理を注文すると、会長は椅子に座った。
「俺はちょっと興味ありますけどね」
と俺の代わりに興味を持ったのは、ケージだった。
「会長が遠田さんに興味をもったあたりですけど」
遠田というより、会長に興味があるらしい。
ちょっとジェラシー。
ポテトサラダにたらそうとしたタバスコが勢い良く噴射した。
ちょっとどころか、結構ジェラシー。
「好きなのは先輩だけですから、机、汚さないでくださいね」
釘を刺すケージは抜け目無いけど、何気なく好きとか言われて、俺はそれなりにハッピー。
「……遠田が好きなのは、俺もよくわかんねぇけど…っていうか、よく考えたらあれだ…吊り橋理論だと思うんだよ。怖いときってドキドキしてるけど、なんか止まってるみたいじゃねぇか?けど、ホッとした瞬間、音がリアルに…」
そんなロマンスのかけらもない話は求めていなかっただろうに、と思ったら、何故かケージがうんうんと頷いていた。
「わかりますわかります。あとから、どーっときますよね」
ちょっと、待て。あとからどーっとくるようなことがケージにも起こったということか、それは。
昔のことなのか、今現在のことなのかよくわからないけれど、どっちにしても気に食わない。
もし、昔のことだというのなら、誰にそうなったんだってことで気に入らないし、今のことなら、俺に対してそんな偽物紛いのことになってんのかって思って気に食わないし。
俺は機嫌の下降と同時に、席から立ち上がる。
「ケージ」
「……はい?」
「悪いけど、俺教室戻るわ」
「…はい?」
不思議そうにとりあえず頷いているケージにさらに腹が立つ。
なんだって言うんだ。クソ。