先輩が居なくなってしばらく、会長との会話を反芻する。
何かが先輩の機嫌を急に損ねてしまったに違いないのに、まるで思い当たらない。
俺の様子に微妙な顔をしたのは、俺と会話をしていた会長。
会長に気を向けたことについては釘を刺しておいたのだから問題無いだろうと、首をかしげると、会長がさらに微妙な顔をした。
「…わからないか?」
「わかりませんよ。俺は恋愛経験少ないんですから」
会長だって、遠田さんを相手にするまで恋愛というより、それを躱す方法しか知らなかっただろうに。
しかし、人の気持ちの移り変わりだとか、人がどう思っているかということを察する能力は人一倍あるんじゃないかな。とは思う。
「……板倉は、どんな時、ドキドキするんだ?」
「え、それは…」
言いかけて、会長とそのような話をしたことを思い出す。
俺がドキドキする…会長が言ったように安堵した途端心臓の音が聞こえるようなことが起こったのは、いつも先輩が関わっている時だ。
告白された時は呆然としたし、ベッドにはいられたときは心臓が止まった。
いつでも、先輩が関わっていた。
膝が、ダメだと言われた時は言われる前に心臓が痛くて、言われた時に心臓が止まってしまえばいいのにと思った。
この違いは、大きい。
「先輩にしか、ドキドキしませんよ」
「……なんで、俺は他人の惚気ばかり聞かなきゃなんねんだ」
惚気、だろうか?…惚気かもしれない。
俺は、先輩が好きだ。
告白はあんなだったし、成り行きで一緒にいたけれど。
ちょっとさみしい人であるとか、馬鹿みたいに俺だけ見ているところだとか、あれだけあからさまに好感情を表してくれるとこだとか、安易に慰めないところだとか。
それでも俺を好きだというし、どんな俺でもいいというし。
俺はたぶん、色々諦めた。
そんなのは大人になるにつれ、みんな経験するもので、なんて最もらしい理由をつけて諦めた。
先輩は諦めるなとか仕方ないよとか言わないで、ただ、一緒にいることを選んでくれる。
何者にも変えがたくて、本当に、先輩だけが好きだ。
「…追いかけてきます」
「そうしろ」
「教室に素直に行ってくれるといいんですが…」
「ないな」
頼んだ料理が机に置かれる。
不意に真っ赤になったポテトサラダが目に入り、笑って俺は立ち上がった。
「会長、それ、食べられますか?」
「さすがにそれは無理だ。下げさせるか?」
「置いといてください。先輩に食べさせます」
「わかった」
そして俺は、先輩を探しに生徒会専用席をあとにした。