高校は行くはずだった高校から、山の上のお坊ちゃまたちがいらっしゃる進学校になった。
やったら美形がいらっしゃるこの学校は、美形至上主義だった。
そしてゲイとバイが多かった。
一日目にしてやばいと思った俺は、できるだけ目立たないようにした。
一日目からあの人かっこいーとかいう声をきいた瞬間から嫌な予感がしてならなかったため、予備のだっさい眼鏡をかけていつもはそれなりに整える髪も整えず、かっちりと制服をきて、ガリ弁を装った。
それだけで、だいぶ埋もれた。
俺はそうして平穏に日々を過ごすはずだったのに、一日目にして俺をみつけた人間がいたらしい。
そして二日目にして俺が埋もれてしまったことに気がついたらしい。
俺の柔軟な対応に、よし!とそいつはおもったようだ。
刺客を仕向けられたのが、三日目。
刺客を避け、影で叩き潰しまわって一週間。
おい、こいつら風紀かよって気がついたのが一週間とちょっと。
そのまま風紀に勧誘されまくりながら、一ヶ月逃げ、二ヶ月目。
うんざりして、覆面風紀になった。
そして今。
俺は進学高校まできて、何やってんだ。
いや、別に自分できたかったわけじゃねぇんだ。でも、何してんだ。
会いたいヒトにはあえない。頑張ってあいにいっていたのに、それすらもできなくなって、ああ、イライラする。
なんておもって、七月。
なんでこの時期に。もうすぐ一学期も終わるだろ。
そんな時期。
どえらい財閥のどえらい息子さんが一学年上に転入してきた。
地味だ地味だ罵られ、生徒会と仲がいいと嫌がられ。
俺は何故か、その地味な転入生をかげながらガードする役目を頂いてしまった。
そういうのは同じ学年の人間にいえよ。
といったところで俺に刺客をさしむけた風紀委員長は、君なら大丈夫。二年の授業も楽勝。だなんて、自分が成績いいからって、俺を部屋に閉じ込め、ステップアップ。
俺は何度強制的に栄養剤を飲まされたことか。
おかげでクマができた。
そして二年のそのガード対象の傍にいって、ふと気がつく。
擦れ違うときに仄かにかおる、匂いがあの人と同じ。
授業中はほとんど寝てて、起きてることなんてそうない。
興味がなかったから、じっくりみることはなかったけれど、今、ようやくガード対象をみる。
すらりと伸びた背、なんのつっかかりもないすとんと落ちたシルエット。
背筋綺麗だなぁ。とおもいつつ、溜息。
あの人もきれいなんだよな、後ろ姿。
会いてぇなぁ。会いてぇ。
「どうかした、藤村君」
ガード対象に近づく際、名前は委員長によって変えられた。
隣に座った風紀委員の声に首を振る。
「ちょっとな」
そういうと、ばっとガード対象の穂高謳歌(ほたかおうか)と俺のようにからかわれそうな名前の男が振り向いた。
「……!エー」
は?と思ったときにはぎゅっと抱きつかれた。
机がいてぇ…と思ったときには、何あれ、まぁ、ある意味お似合い?みたいなまわりの反応が耳にはいっていた。
いや、それはどうでもいい。
「……『エー』って、えーですか、aですか」
「アルファベットのファースト。整腸剤の糖衣」
「うわぁ…最後のいりませんでした」
糖衣の話される前にさすがに気がついていた。一応確認だ。
俺をエーだなんて呼ぶ人は一人しかいない。
それにこの声、この抱きつかれたときのかんじ、あと、なんとなく。
ヘッドだ。…本名知らなかったんだよ、だいたいなんでこんな、似合わない色に染めてきてんのこの人。美形台無し。いや、一番台無しにしてんのはその眼鏡か。似合ってない、似合ってないから。
「エーなんで、そんな地味?隠れてんの?意味わかんねんだけど」
あ、ヘッドも同じようなこと思ってた。
「いえ、ちょっと色々ありまして、目立つと面倒なので」
「はぁ?ていうか、二年生?」
「いえ、ちがうんですが、無理矢理進級させられまして」
ええ、うれしくないことに。
でも、これはこれでよかったというべきなの…か?