君は太陽


 目覚まし時計がなる前に目が覚めた。
 けれど布団から出ていくのが嫌で、しぶとく毛布を被る。ちらっと毛布の隙間から確認すると目覚ましがなるまであと五分だ。ぐずぐず布団に残りたい朝にうるさい目覚ましの音を聞きたくない。俺はその一心で手を伸ばす。
 目覚ましはベッドヘッドの隅にあった。雨の日も風の日も夏の暑さにも冬の寒さにも負けずに毎日毎日俺の目覚めを健気に待っていて、朝食をつくるためにいつも早くからなる準備をしている。
 今日もいつも通り目覚まし時計は俺を待っていた。
 だが、俺の事情がいつもと違う。
「今日はいねぇんだよ、高雅院は……」
 そう、高雅院雅がどこにもいないのだ。
 朝食をつくるのは高雅院にいい顔をしたいからであって、けして自分が朝から優雅に飯を食いたいからじゃない。早い時間に起きるのはすごい朝食だろと見栄をはりたいだけで、本当は食パン焼いてバター塗るだけでもよかった。
 高雅院がいなければそれでいいのだ。
「なんでいねぇの……」
 水城の家に呼び出されたとかで、一時帰宅している。
 事情はちゃんと説明してくれたから知っていた。
「なんでって……水城の家に仕えないかって勧誘の建前かな?」
 いないはずの人の声が聞こえ、俺は毛布の隙間を掻きわける。
 そんな馬鹿な。誰よりもよく見てほしい恋人の高雅院は水城の家にいるはずである。否定したい俺の目に飛び込んだのは朝日と高雅院の笑顔だ。
「おはよう。まだ早いからゆっくりしててくれ。朝食は俺が作るから」
 その声がひどく優しく響いた。
back Mikka-top